4 / 5
第4話 初恋の呪い
おずおずと近づいてくる遥に身をまかせる。
おぼつかない手つきでコンドームの封を切ると、遥はそれを勃起した自分の性器に被せようとした。
「……裏表逆だ」
慣れていない様子に、少し安堵する。この年で手馴れているような、爛れた少年であって欲しくない。
いや、今から……義理とはいえ祖父とセックスをするのだ。これから、爛れて汚れてしまうのか。
「あ、うん……こっちか」
ぎこちない手付きでコンドームを被せると、遥はそろりと雅之の体を仰向けに倒し、腿の間に腰を進めてきた。
雅之も、足を開き受け入れる。
「……いいの?」
「いい訳が無いだろう、こんな事……だが、嫌だやめてくれと言ってやめてくれるのか?」
「やめない……」
「そうだろう」
それに、もし本当に敏朗が取り憑いているならば、奴の心残りは雅之を犯せなかったことだ。
遥にコンドームを買わせたのが敏朗なら、奴は遥の体を使って、雅之を抱こうとしている。望みを叶えてやり満足させてやれば、遥から出ていってくれるかも知れない。その為ならば……年寄りの貞操など、安いものだ。
「さっき出たので、ベトベト……」
「う、っ」
「慣らしたり、とか。しなきゃだよな」
「あっ、う……い、いいから、さっさとすませてくれ」
尻たぶや太ももを汚す精液を指ですくい、遥はそれを丹念に後孔に塗りつけてきた。
くるくると縁 をなぞって濡らしてから、人差し指がつぷりと差し込まれる。
「くっ」
「入り口キツいのに、中やわらかい……ここに、ちん×いれるんだ」
「っ、うっ」
ゆっくり根元まで挿れて、中を指先で探ってくる。感触を確かめるようにあちこち撫で回されて、羞恥と異物感に耐えきれず腰が引けそうになった。
「雅之さん、逃げないでよ」
「くっ、あ、すま……んんっ!」
「ちゃんと、良くするから。おれ、頑張るから」
いきなり指を増やされ、二本の指が中をかき混ぜる。中に精液を塗りつけて濡らしながら、遥は拙い愛撫ではあるが雅之の感じる場所を探しているようだった。
「うあっ! はっ、あ!」
指先が、睾丸の裏あたりをかすめると、雅之の体は勝手に跳ねた。
白髪が混ざりはじめた陰毛に埋まっていた、雅之の性器がひくりと震える。
「ここ、気持ちいいの?」
「ッ、ぐ」
くりくりと、二本の指が快楽のしこりを弄る。知識では知っていたが、これが前立腺か。男の体の奥にある、性感帯。
体から力が抜け、呼吸が浅く激しくなっていく。それが恥ずかしくて、自分の指を噛んで堪えた。
「うぐ、ん……くぅっ」
「雅之さん、やらしい……中も、にゅるにゅるして、指にからんで……も、ムリ、挿れたい……」
汗だくで顔を真っ赤にした遥は、雅之の中から指を抜くと、限界まで張り詰めた勃起を後孔に押し当てた。
薄い皮膜越しに、熱さが伝わってくる。
「ッ、あっ! 入るっ、うあ、ああ」
「ぐっ、ううっ」
ぐぷりと一番太い亀頭が食い込むと、後は遥の体重でずぶずぶと潜り込んできた。
異物を受け入れたことの無い場所が、無理やり開かれていく。
痛みもあるが、それよりも圧迫感と、内側から焼かれるような灼熱感が強い。今まで感じた事のない感覚に怯え、雅之は思わず遥の腕を掴んで縋りそうになった。
だが、その手は空を彷徨い、結局床に落ちる。
「ひっ! あ! やば、いい! こ、んな、ぁっ」
狭い肉を掻き分けて根元まで埋めると、遥はガクガクと震えて雅之に抱きついてきた。欲に蕩けた目には、涙さえ浮かんでいる。
はじめてのセックスに翻弄されてしまっているのだ。体からは力が抜けて、雅之にすがって甘い声をあげている。抱かれているのは雅之なのに、無垢な少年にいたずらをして快楽を教えこんでいるようで、おかしな興奮を覚えた。
「遥……ゆっくりでいいから、動いてみなさい……」
「う、うんっ、まさゆき、さ……んくっ、あ! ああっ!」
ゆるゆると数回腰を揺すっただけで、遥はあっけなく達してしまったようだった。体内の性器がピクピク跳ねて、コンドームの精液溜めに熱いものが満ちていく。
少年をこの身でイかせてしまった背徳感と罪悪感、そして達成感に、頭がくらくらした。
「は……あ、っ……き、もち、いい……」
うっとりしている遥の額に、汗で髪が張り付いている。それを払ってやると、遥は気恥ずかしそうに雅之から視線を逸らした。
「ん、はあ、……ごめ、……おれ先にイッちゃって……かっこ悪すぎ」
「気にするな。はじめてなんて、そんなものだ」
「でも……雅之さん、まだ良くなってない」
「俺は別に、…うあ! ま、待て、はるっ、うっ」
遥はムキになったように深く雅之の中を穿ち、ピストンを再開した。
今しがた射精したばかりなのに、遥の勃起は全く勢いが衰えない。十代の欲望は、底なしのようだった。
コンドームを付け替える事もせず、そのままで腰を振り続ける。まるで、盛りのついた犬だ。
「ひ、う、うぐっ、あっ」
「ング、すげぇ、雅之さんっ! き、もちい、いいっ!」
ズンズンと、遥の熱が腹の中を擦り上げる。
出し入れの度に雅之の体も慣れてゆくのか、痛みや圧迫感は薄れ、だんだんと甘い疼きに変わりはじめた。
雅之の一物もいつの間にか首をもたげ、遥が腰を打ち付ける度にぷらぷらと揺れている。それが恥ずかしくて、手のひらで押さえて隠した。
「あ、あうっ、うっ」
「も、また、イッ、く」
熱い身体に抱きつかれ、腰を激しく打ち付けられる。深い場所を抉られて、苦しくて呻き声が出た。
また遥の体はビクビクと跳ねる。泣きそうな表情で、濡れた吐息を漏らしていた。
ぷくんと体内の精液溜めが膨らむのを、擦られて敏感になった内壁ではっきりと感じる。
「ひっ、うぅ……んっ」
「っ……はぁ、……遥……」
「ま、まさゆき、さん。まさゆきさぁんっ」
雅之の胸に頬ずりをして甘えながら、遥はぶるりぶるりと腰を震わせる。その遥の頭を撫でてやりながら、遥の欲望も受け止めた。
遥の汗と涙が混ざって、雅之の胸元はくしょりと濡れる。
遥は、今どんな思いで雅之を抱いているのだろうか。こんな老人で童貞捨てて、後悔はないだろうか。
そんな考えが、遥を撫でる雅之の手つきを優しくした。
「……頭、やめろよ。おれ、もう子どもじゃねーから」
「そうか……そうだな」
目元を真っ赤にした遥は顔を上げると、不満そうに唇を尖らせる。
その表情は幼いのに、下半身は雅之と繋がったままだ。
しかも、まだ腰を振ろうとしている。
「待て遥、もう終わりに……うぁっ」
「良すぎて、ムリッ。は、ああ……なんか、ぬるぬるして、ズレてきた」
止めても聞かず、遥はまた抽送を再開する。
だが、二度も大量に射精したから、精液溜めから精子が溢れたようだ。中でコンドームがずれて、たわんだ皮膜が内壁を擦って違和感を覚える。
「……は……遥……もう、やめ」
「無理、だって雅之さんまだイッてないだろ」
「俺は、いいからっ」
流石に少し萎んでいたのか。ついに雅之の中でコンドームが遥の一物から抜けた。
遥は舌打ちをし、腰を引いて一度性器を引き抜く。取り残されたコンドームも引っ張り出すと、それを雅之に見せつけてきた。
「うわ、やらしー……すげぇ出てる」
たぷんと先端に白濁をためたそれを、ぷらぷらと振って遥は笑う。
見ていられなくて、手の甲で目元を隠した。
「……外れちゃったから、中にも溢れたみたい」
ぬるりと、熱いものが後孔から垂れ落ちる。それを指先でくちゅくちゅ掻き混ぜて、遥は意味深な視線を雅之に送ってきた。
その目は嗜虐的な色に染まっている。純な少年のものではない、暗い欲望が渦巻いていた。
「女だったら、できちまうかもな」
「……お前」
「なあ、生でさせろよ。雅之サン?」
白濁まみれの自分の性器をぐちゅぐちゅとしごいて勃たせながら、目の前の敏朗の顔をした遥は嗤う。
いや、こいつは敏朗だ。
つい先ほどまでは、確かに遥だったのに。
いつの間にか、花火は終わっている。部屋の中はわずかな月明かりだけで薄暗いが、遥の――敏朗の目だけは鈍い光を放っていた。
「遥から出て行け」
「オレは遥だよ。じーちゃん」
「違う。お前なんか遥じゃあない。敏朗だ。敏朗の、亡霊だ」
「はは……なら、お前は敏朗の亡霊とセックスしたのか」
「違う……」
「なら、敏朗とじゃなくて、年端もいかねぇ孫とヤったのか? 変態じじいめ」
唇を笑みの形に歪ませたまま迫ってくる敏朗を睨みつけ、雅之は固く腿を閉じた。
「お前のせいだろう」
「違うだろ? お前は初めから遥が欲しかったんだろうが。敏朗にそっくりな遥を、自分のものにしちまいたかったんだろ。薄汚ねぇ下心から、遥に優しくしてたんだろうが。良かったな、望みが叶って」
違う。そう否定したかったが、声が出ない。
駅の前で遥を顔を見た時。初恋の頃の敏朗を前にしたような、胸のたかぶりを確かに感じたからだ。
そして、遥に抱かれている間も、愛おしさを感じていた。決して、嫌ではなかったのだ。
「今度は、オレが望みを叶えてやるよ」
あごを指先で持ち上げ、唇を重ねようとしてくる。
顔を背けると、髪を鷲掴みにされ無理やり視線を合わされた。
「ッ、う」
「今更、カマトトぶるんじゃねーよ。孫に犯されてよがってたくせに」
ぺろりと、頬を伝う汗を舐めとられる。敏朗に押し倒された日を思い出し、吐き気がこみ上げてきた。
「欲しかったんだろ、オレが。……素直になろうぜ。お互いにな」
空いた手でするりと腿を撫でられて、そこを開けと催促される。
抵抗を諦めた雅之は、おとなしく従い足を開いた。遥の精液で汚れた下肢が再び露わになる。
「……勝手にしろ。だが、済んで満足したら遥から出て行け」
ぎらりと、敏朗の目が殺気に近い怒気を孕んで光った。
雅之の髪はようやく解放されたが、今度は両手で肩を掴んでガクガクと揺さぶられる。
「なんでだ!! 遥、遥って!! 遥のためかよ! 違うだろうが!! 敏朗に抱かれたいと言え!! 敏朗が好きだと言えよ!!」
まるで懇願するかのような、敏朗の叫びだった。
はじめて敏朗に哀れみを感じる。いつも自信に溢れ、真夏の太陽のような眩しい笑顔を浮かべていた、あの頃の敏朗と同じ姿だというのに。
なんと、みじめなのだ。
「敏朗、俺は……十五歳の頃迄のお前が好きだったんだ。今は、違う。終わった。終わったんだ。過去からきた亡霊だ」
敏朗は、悔しそうに顔を歪めた。
肩を掴む手は、痛いくらいに爪を立ててくる。だが、それは雅之が受け入れるべき痛みなのだろう。
「くっ……」
「なんだよ……ははは……結局お前、ただの少年愛者なのか。この顔のガキなら、なんでもいいのか。変態野郎め」
雅之は少年時代の敏朗以外は、妻しか愛さなかった。他の少年にも、男にも心を動かされた事はない。
少年愛者でも、同性愛者でもなかった。
「……ふふ」
だが、遥は別だ。
素直な愛らしさと思春期らしい生意気さがない交ぜになった複雑さ。
少年から大人の男へ変わろうとする途中の、アンバランスな心身から滲む、儚い美しさ。
確かに遥には少年の魅力を感じている。
「そうかもしれないな……でもな、敏朗。多分、お前と遥とが同じ時代を生きていて、少年の二人と同時に出会う事が出来たなら。俺はきっと、遥の方を好きになったよ」
そう言ってみると、敏朗は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった。
それは多分事実ではないが、今の正直な気持ちでもある。
敏朗は性格が悪すぎる。遥の方が、ずっといいやつだ。
「遥を返してくれ。俺の孫なんだ。これから、家族になる大事な子なんだ」
敏朗の手が、雅之の肩から離れる。
代わりに、頭を抱きかかえるように引き寄せられて、唇が触れそうになった。
「やめろ、敏……」
「違う、おれ……おれだから」
ごく至近距離で覗き込んだ瞳には、あの暗さはなかった。若々しい欲望と熱で潤んだ、遥の目だ。
「はる、……ん、んう」
元に戻ってくれたのか。
安心していると、唇を奪われた。歯列を割り、舌を入れてくる。
だが、そこからどうしたらいいのかわからないのか。動きを止めた遥の舌を、自分の舌で押し返した。
「ン、ア……ふぅっ、雅之さんっ」
「遥……正気に戻ったのか」
「違う、ずっと見てた。でもまた体が勝手に動いてたんだ……雅之さんっ、なあ、おれを好きになってくれるの?」
どっと、汗が噴き出す。
まさか、遥の意識があるとは思わなかった。
尻たぶに硬いものがごりっと押し当てられる。
三度も射精したというのに。ガチガチに勃起した遥の欲望が、早く中に入らせてとノックしている。
「おれも……雅之さんの事、好きになっちゃっていい?」
くぷっと、裸の性器が後孔に食い込む。コンドーム越しではない肉の質感は、身震いするほど生々しい。
「は、はるかっ。だめ、だ」
「だめ? でも、もうおれ雅之さんの事しか考えらんない」
「う、うっ、待て、付けてな、ああっ」
「雅之さん、おれと……おれと付き合ってよ。おれの、彼女になって」
生で抱かれては駄目だ。引き返せなくなる。
そう思いつつも、遥には強く抵抗出来なかった。
「ッア! うぅっ!」
「すげ、……生って、全然違うっ、うあ、き、きもちいっ」
さっきまで遥を受け入れていて緩んだ後孔は、簡単に根元までの挿入を許した。もう、そこは男を受け入れる為の性器に変わりつつあるのだ。
「ッ、……く、…あ、あっ」
「雅之さんっ! あ、ンう! 雅之さん、雅之さん!」
熱くてすべすべした肉の杭が、雅之の肉体と心に、消えないものを打ち込んでいく。
遥の柔らかい唇が雅之の胸元や首筋に触れ、微かな痛みと共に赤い痕を残した。
刻みこまれていく。
この『男』のものだと。
「うっ、あう、はる、かっ、はるかっ、あ、浅い、ところ、をっ」
「あ、浅いとこ? このへん?」
「うあっ、はあっ! ああっ、そう、そこだ、あうっ」
羞恥も矜持もかなぐり捨てて、感じる場所への愛撫をねだった。前立腺のあたりを亀頭の張り出した部分がゴリゴリとえぐり、痺れるような快楽に雅之は髪を振り乱して喘いだ。
「んあ、はあっ、ここも、んぅ、遥っ」
雅之の性器も完全に勃起し、つゆを垂らして濡れている。
そこに遥の手を導いた。
「や、やらしい、雅之さんちょーやらしいっ! も、好きだっ、好きだっ雅之さん!」
雅之の性器を握り優しく扱きながら、遥は更に激しく腰を振った。ちゃんと浅い場所も刺激できるよう、ギリギリまで抜いて最奥まで貫いてを繰り返す。
「ひ、あっ、ううっ」
「も、イクっ、い、一緒に、一緒にイきたいっ、雅之さんっ」
「あ、んあ、イ、イク、イクから、んああっ」
雅之をイかせようとしてか、手淫が激しくなる。あまりの快楽に堪えきれず、雅之は遥の背中に腕を回し縋り付いた。
「んあ、ああ、出るぅっ、ううっ」
その瞬間に、遥の性器がまたびくびくと跳ねた。密着した遥の汗だくの体がこわばり、ぶるっぶるっと痙攣する。
雅之の中に、熱くて若々しい欲望が吐き出されていく。それを受け止めたと同時に、その背徳感と愉悦に溺れながら雅之も絶頂を迎えた。
遥の手の中に、トロトロと白濁をこぼす。
「あ……はぁッ……」
「雅之さん……イった?」
「……ん、……ああ。イった」
「良かった? なあ、おれすごい良かったんだけど、雅之さんも気持ちよくなれた?」
「ああ。すごく、気持ち良かった」
遥の手のひらが、雅之の頬を愛おしげに撫でる。まさに男が事後、抱いた女にするような仕草だ。
「良かった。嬉しい……雅之さん。好きだよ」
真摯な目をした遥に、今更ながら雅之はドキドキした。
初恋の頃と同じ、甘酸っぱい感情が胸を満たす。敏朗に似ているからではない。遥の目がまっすぐだから、ときめいているのだ。
「……ね、つきあってくれるよな?」
その問いには、雅之は首を横に振った。だが遥が落胆する前に、頬に添えられた遥の手に、唇を寄せ手のひらに口付けをする。
「……遥。今のお前の気持ちは、きっとまやかしだ。きっと……家に帰れば忘れる」
「そんなこと……」
「だから、な。遥……この家にいる間だけなら。俺はお前のものだ」
あとたった四日間。
だが、その間だけは。雅之も、この関係に浸っていたかった。
ともだちにシェアしよう!