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第一章・12
「玉置 郁実、か」
移動中の車の中で、颯真はニヤニヤ笑っていた。
本当に、ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ。
だが、一方で嬉しさも感じていた。
この世界で、俺のことを全く知らない人間がいる。
それが、郁実少年だ。
「じゃあ、君に本当の俺を教えてあげよう」
仮面をかぶった、営業用の俳優・五条 颯真ではなく、個人の五条 颯真を。
「ちょっと、買っといて欲しいものがあるんだけど」
颯真は隣に座るマネージャーに、そう言った。
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