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第一章・14
颯真の再びの訪問に、郁実の父は喜んだ。
「まさか、また来てくださるなんて。あれから、五条さんの番組は全部見てますよ!」
こいつも、あなたのことをようやく覚えました、と息子の頭をぐりぐりする、マスター。
「でももしかして、バラエティだけ、でしょ?」
その言葉に、郁実が苦笑いする。
颯真は、衣装の自由が利く番組では、必ずこのマフラーを付けて出た。
顔が解らなくても、このマフラーで郁実くんは判るはず。
そう考えての、作戦だった。
「実は、今日はご挨拶に来ました」
「挨拶、ですか」
「はい。駅の近くにマンション買いましたので」
ええっ、と郁実は驚いた。
「この近所に、住むんですか!?」
「さすがにまだ、それは無理なんだけど」
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