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第一章・15

 颯真ほどの売れっ子になると、今ここにこうして一人でいること自体奇跡に近い。 「ウィークリーマンション的な。でも、できるだけこうして、君の近くに居たいと思ってね」 「何、父親の前で息子を口説いてるんですか」  マスターが、笑う。 「あぁ、すみません。いえ、どうしても郁実くんに俺の顔、覚えて欲しくって」 「僕、もう覚えました」  嘘だ、と今度は颯真が笑った。 「このマフラーで判別してるだけだろう? ドラマ『道の赤』で俺が演じてるのは誰?」 「えっと……」  ほら、解らない。  颯真は、愉快になった。  解るようになるまで、張り付いてやるよ、と郁実をからかった。

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