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第一章・23

 実際は郁実が上がり込まなくても、自動で換気はなされるし、スマホを通じて窓の開閉も可能だ。  だが、颯真は何か口実が欲しかった。  この少年との縁を繋ぐ、口実が。  マンションから喫茶店までは短いドライブだったが、颯真はオーディオでジャズを流した。  郁実は、嬉しそうにそれを口ずさんでいる。  曲がちょうど終わった時、喫茶店前に着いた。 「ありがとうございました」 「いいんだよ」  お父さんによろしく、と颯真はポルシェで走り去った。

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