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第一章・23
「ただいま」
「お、郁実。五条さんはどうした?」
「車で、行っちゃったけど」
ありゃ~、と父は申し訳なさそうな顔をした。
「引っ越しのご挨拶、いただいちゃったぞ」
「え!?」
だって、今までずっと、僕と一緒にいたのに!?
店内には、甘く香る見事な蘭の鉢植えがあった。
「今はスマホで、何でもできるからなぁ」
父はそう言って、腰に手を当てた。
郁実と一緒にコーヒーを飲む間に、さくっと注文したに違いない。
「こんな立派な花、きっと高価だぞ」
「僕、アドレス交換したからお礼言っておくよ」
「そうしてくれるか?」
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