27 / 142

第一章・27

 二人で静かに、コーヒーを飲んだこと。  あったかい時間だった。  僕が何も喋らなくても、五条さんは責めたり急かしたりしない。  ただ、僕の沈黙を受け止めてくれた。  クラスでの郁実は、大人しい生徒だった。  賑やかな性格なクラスメートには、陰キャ扱いされていた。  進学も就職もしない郁実を、さっそく引きこもりのニート呼ばわりだ。  違うのに。  僕は、父さんの喫茶店に就職するのに。    そんな郁実の一面を、全く知らない颯真と過ごす時間は、心からくつろげた。

ともだちにシェアしよう!