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第一章・28

「あ、メールだ」  颯真からだった。 『また、あのマフラーしていくからね』  大丈夫ですよ、五条さん。  マフラーなくっても、もう僕はあなたのことを覚えましたから。  郁実は、笑顔になった。  素直な、いい笑顔だった。 「父さん、ちょっと出かけてもいい?」 「いいけど、どこへ行くんだ」 「五条さんの映画、レンタルしてくる」  郁実は、グレーのマフラーを巻いて、自転車に乗った。  北風は冷たいが、心はぽかぽか温かな冬の日の午後だった。

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