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第二章・3

 父は郁実のスマホを受け取り、何もない所にしきりに頭を下げている。 「電気料金は、私が負担しますので。イルミネーションやツリーの灯りは、どんどん点けちゃってください」 「そこまでしていただくわけには!」  大人の会話を聞きながら、郁実はツリーの飾りに触れていた。  美しい、磁器でできた繊細なオーナメントだ。 「壊したら、大変だな」  でも、五条さんなら笑って許してくれるんだろうな。  郁実は、彼の人となりの一端を捉え始めていた。  

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