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第二章・6
郁実は、ドキドキしていた。
さっき颯真に肩を抱かれた時、何ともいい香りが鼻をくすぐったのだ。
あんなに近くで触れ合って、胸が高鳴ったのは、彼が有名人だからではない。
(五条さんって、素敵な人だな)
「郁実くん? 画像、届いた?」
「あ、はい!」
颯真は颯真で、郁実を信頼していた。
この子は、俺と一緒の写真をクラスメートに見せびらかすような性格じゃない。
この子の傍でなら、俺は俳優・五条 颯真ではなく、ただの人間に戻れるんだ。
「五条さん、寒いでしょう。どうぞ、中へ。コーヒーを淹れますよ」
「ありがとうございます」
まるで家族のように、3人は寄り添って屋内へと入って行った。
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