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第三章・6

 喪主は、郁実だった。  とてもつい先日高校を卒業したばかりとは思えないほど、立派にふるまっていた。  マスターの元妻、郁実の母親は通夜にも本葬にも来なかった。 「連絡はしたの?」 「連絡先、知らないんです」  父も僕も、知らないところで新しい人生を送っているんです、と郁実は言った。  新しい人生。  それは、過去をすっかり失くすことではないだろう。  過去があってこその、新しい人生の構築なのだから。  過去と同じ過ちは犯すまい、過去にできなかったことをやろう、そういった考えなしでは新しい何かは作れない。  颯真はそんな思いで、郁実の母を心の中で責めた。

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