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第三章・8

「美味しい」 「ありがとうございます」  早春の空気で冷えた指先を、コーヒーが温めてくれる。  静かな時が、ゆっくりと流れる。 「郁実くん、俺のマンションへ来なよ」 「え?」 「気持ちの整理がつくまで、ここを少し離れた方がいい」  ここには、父親の思い出が多すぎる。  その一つ一つを目にして、その都度泣いていては、涙も枯れ果ててしまうだろう。 (お父さんがいたら、お決まりのセリフが飛び出す所だな) 『五条さん、父親の前で息子を口説くの、やめてくださいよ』  お父さん、すみません。  こうなった以上、ガンガン攻めさせていただきますよ。

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