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第三章・12
「あ、ごめんなさい。何だか、すごく眠たくって……」
「無理もないよ。君はすごく頑張ったからね」
でも、そのまま寝ると風邪をひく、と颯真は郁実をドレッサーに座らせた。
ドライヤーで髪を乾かしてもらう間も、郁実はこくりこくりと舟をこいでいた。
「郁実くんの髪、柔らかくてきれいだね」
「そう、ですか?」
郁実の返事は、どこか遠い所から聞こえてくる。
これは今口説いても無理、と颯真は判断した。
「さ、できた。はい、ベッドに入って」
「二人で、寝るんですか?」
「そうだよ。あ、大丈夫。俺、何にもしないから」
安心したような、残念なような……。
ただ、いろいろと思いを巡らせるには、郁実は眠た過ぎた。
ベッドに潜ると、隣の颯真に無意識のうちに抱きついた。
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