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第三章・13
「い、郁実くん?」
「颯真、さん……」
そのまま、すうすうと寝息が聞こえてきた。
お疲れ様、郁実くん。
颯真は、彼の唇にそっとキスをした。
(お父さんが、見てるかな?)
素敵な大人の男性だった。
颯真は、郁実の父に想いを馳せた。
ジャズが好きで、コーヒーを淹れるのが巧くて、息子を誇りに思っていて。
「あ、やばい」
颯真の眼から、涙が零れた。
演技じゃなくて泣くなんて、久しぶりだ。
マスターが郁実くんを守ったように、今後は俺が守るんだ。
そんな決意を胸に、颯真もまた眠りに落ちて行った。
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