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第四章・5
茶店でお茶と和菓子をいただきながら、颯真はさりげなく郁実に話を振った。
「そう言えば、郁実くんの誕生日って、いつだっけ」
「今日です」
えっ、と、げっ、の中間の声を颯真は吐いた。
「き、今日!?」
「はい」
郁実は郁実で、あれ? と言った顔だ。
「だから、お花見に誘ってくれたんだと思ってました」
「いや、あぁ、ごめん。ちっとも知らなかった」
だったら、もっと豪華なデートコースにすればよかった、と颯真は頭をかいた。
「いいえ。最高の誕生日です」
学校以外の桜を見たことなんか、これまでなかったから。
父さんは喫茶店を年中無休でやってたから、お花見に行く暇なんてなかったから。
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