59 / 142

第四章・5

 茶店でお茶と和菓子をいただきながら、颯真はさりげなく郁実に話を振った。 「そう言えば、郁実くんの誕生日って、いつだっけ」 「今日です」  えっ、と、げっ、の中間の声を颯真は吐いた。 「き、今日!?」 「はい」  郁実は郁実で、あれ? と言った顔だ。 「だから、お花見に誘ってくれたんだと思ってました」 「いや、あぁ、ごめん。ちっとも知らなかった」  だったら、もっと豪華なデートコースにすればよかった、と颯真は頭をかいた。 「いいえ。最高の誕生日です」  学校以外の桜を見たことなんか、これまでなかったから。  父さんは喫茶店を年中無休でやってたから、お花見に行く暇なんてなかったから。

ともだちにシェアしよう!