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第四章・10

 さて、19歳になった郁実に望むことがある。  颯真は、いつ切り出そうかと手をこまねいていた。  郁実くんが、欲しい。  この素敵な少年と、恋に落ちたい。  郁実がバスを使っている間、颯真はずっと考えていた。  自分がバスタブに浸かっている間も、ずっと考えていた。  恩に着せるような言い方は、したくない。  俺は本当に、出会った頃からずっと郁実くんが好きで。  だからこそ、彼が喜ぶことをしてきただけなのだ。 「でも、郁実くんは俺のこと、どう思ってるんだろう」  ただの、芸能人と思っているかもしれない。  恋に、こんなに憶病になったことは初めてだ。

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