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第五章・13

 何か、声を掛けてあげたかった。  しかし、今の郁実に何と声を掛けようか。  もともと、会話の少ない二人だ。  事後にぺらぺら感想を言うのも、おかしな話だ。  それに、あんなに乱れた姿を見せた後は、恥ずかしいに違いない。 「大丈夫?」  絞りに絞って思いついたのが、こんな単純な言葉だった。  眼を閉じ、息を荒げていた郁実は、颯真の声に薄目を開けた。 「は、い……」  甘く、蕩けそうな声。  良かった。 「俺、今すごく幸せだよ」 「僕も、です……」  二人で、抱き合って眠りに就いた。  初めての、夜。  忘れられない一夜になった。

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