90 / 142

第六章・9

「ドラマでは、こんなに硬派なクールガイなのに」  颯真の入浴中、郁実は彼が主演の番組を見ていた。 『正義か。そんなもの、この世にありはしない』  そして、悪を撃ち抜く一匹狼の始末屋。  理不尽に陥れられた人間の依頼を受け、悪を屠る男を、颯真は演じていた。 「カッコいいなぁ、颯真さん」 『一緒に入ろうよ~♪』  お風呂に誘う、お茶目な男と同一人物とは、とても思えない。  どっちが本当の颯真さんなんだろう。 「たぶん、どっちも、だな」 「郁実~、お風呂空いたよ~」  間の抜けた声に、郁実は笑った。

ともだちにシェアしよう!