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第七章・3

「申し訳ございません。すぐに代わりをお持ちします」 「早くしてね!」  郁実はスタッフの背中を押すと、ブレンドを下げた。  小声で、愚痴が始まる。 「絶対あの客、おかしいですよ。絶対、ブレンド、って言いました」 「うん、佐藤さんの言うことが正しいと、僕も思います」  だけど、お客様だから。  お客様を喜ばせることが、僕たちの務めだから。  郁実は紅茶を淹れると、自ら席へ運んだ。 「先ほどは、失礼いたしました」 「うん、気を付けてよね。店長は? お詫びに来ないの?」 「私が、店長です」  客の目が、丸く見開かれた。

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