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第七章・4

「その若さで、店長さんか。いいご身分だね! 俺なんか、10年勤めてもヒラだよ!」 「どうぞ、出世なさっても御贔屓にお願いいたします」    巧いこと言うね、と客は笑い、その場はなんとか収まった。 「すみません、店長」 「災難でしたね、佐藤さん」  午後も頑張りましょう、とここでまた、笑顔。  郁実の笑顔には、人を癒す力がある。  ただ、本来内向的な性格の彼には、だんだんそれが苦痛になって来ていた。    無理して笑ってるわけじゃない。  郁実は、自然と笑顔を作ることのできる人間だ。  ただ、先ほどのような無茶な客にまで笑顔を向ければ、誰だって疲れるというもの。  郁実に、疲労が溜まってきていた。

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