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第七章・10
「以前の俺なら、別にどうでも良かったんだけど。でも、今は」
今は、郁実がいるから。
「郁実は、俺が仕事とはいえ他の誰かとキスしたりするの、平気?」
「そんな意地悪なこと……、言わないでください」
喫茶店での僕なら、いくらでもいい笑顔をしてる。
店長の僕なら、お仕事なら仕方がないでしょう、なんてお利口さんな笑顔をするだろう。
でも今は。
ここでの僕は。
「イヤです、颯真さん。他の人と、キス、しない、で……」
涙が、溢れてくる。
眼の前の颯真が、滲む。
「郁実……」
颯真は、郁実を抱いた。
もう一度、キスをした。
さっきより熱い、長いキスを二人で交わした。
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