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第七章・14

 喫茶店を締め、マンションへの帰り道に郁実はいた。  途中まで方向が同じのスタッフ・佐藤と一緒だった。 「何かいいことでもあったんじゃないですか? 教えてくださいよ~」 「そんなこと、ないですよ~」  二人で笑い合いながら、道を歩く。  だんだんと車道が広くなり、交通量も増してきた。 「じゃあ、僕はここで。店長、雨ですからチャリ気を付けてください」 「ありがとう。佐藤さんも気を付けて」  そうして、二人は交差点で別れた。  佐藤はバス停に向かい、郁実は自転車を押した。 「蒸し暑いなぁ」  そう佐藤がぼやき、バスに乗り込もうと列に並んだところで、背後から急ブレーキの音がけたたましく聞こえてきた。

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