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第八章・6
温かい、血の通った手。
「郁実、俺が解るか?」
どこかぼんやりとしたまま、郁実は唇を動かした。
「五条さん、ですよね」
「え?」
『颯真さん』ではなく、『五条さん』?
「父の葬儀に出てくださって、ありがとうございました……」
「郁実?」
そこでスタッフが、二人の間に割って入った。
「玉置さんは、記憶障害を起こしているんです」
それって、まさか。
「記憶喪失、ですか!?」
「事故に遭ったことも、覚えておられません。また、事故前の記憶にも、あいまいな点がみられます」
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