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第八章・7

 そんな。 「郁実、君は今どこで暮らしてる? ん?」 「喫茶店の二階ですが」  違うだろ。  俺と一緒に、駅前のマンションに住んでるんじゃないか!  動揺する颯真を察してか、スタッフが郁実に少し休むよう促した。  颯真は別室に呼ばれ、郁実について説明があった。 「怪我を負う前の、過去の記憶が思い出せない状態にあります」 「でも、自分の父親が亡くなったことはしっかり……!」 「発症時点に近い時期の記憶ほど障害を受けており,発症から遠い時期の記憶ほど保存されています」  だから、自分の名前や家族、生い立ちは覚えている。  だが、最近の記憶が思い出せない。 「何だって……」  じゃあ、俺のことも全部……!?  颯真は、眼の前が真っ暗になる心地だった。

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