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第八章・10

 半泣きだったマネージャーを何とかなだめて、颯真は郁実の喫茶店スタッフに電話を掛けた。  相手は、チーフの斎藤だ。  斎藤は50代の、バリスタ経験者。  務めていたショップが撤退したので、次の店を探していたところに颯真の知り合いから声を掛けられた。  颯真と郁実の仲も知っている、唯一の人間だ。 「斎藤さんが陣頭指揮を執って、近いうちから店を開けて欲しいんですけど」 「じゃあ、玉置さんは……?」 「ありがとう。何とか意識が戻って、今からリハビリに入るところです」  よかった、と電話越しに鼻をすする音がする。 (郁実は人徳者だなぁ) 「ちょっと経営締めてかからなきゃいけなくなります。経理の小田さんと、まず話し合ってください」 「承知しました」

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