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第八章・11

 これで、よし。  電話を切り、颯真は上を向いた。  今はこうして上を見て、とにかくがむしゃらに前に進むしかない。  帳面を丁寧にひとつずつ消していって、残る大切なものを守ればいい。 「え~っと。俺の作詞作曲で歌ってくれそうなヤツは……」  タブレットを操作し、アーティストを検索する。 「それから~。俺のデザインを使ってくれそうな会社は……」  以前お世話になったクライアントの名刺を、引っ張り出す。  颯真は、見えない未来に手探りで歩き出した。  全ては、郁実のために。 「大丈夫だよ、郁実。君だけは、しっかり守ってみせるから」  それだけが、今の颯真に残された意地と誇りだった。

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