129 / 142

第九章・3

「でも、これ以上五条さんにご迷惑をおかけするには……」 「迷惑!? とんでもない。好きでやってるんだから、気にしないで!」    それより、と颯真は話題を逸らした。 「コーヒー淹れてくれるかな? お湯は、俺が沸かすから」 「はい」  コーヒーを淹れる腕は、ちっとも衰えていない郁実。  体が覚えているのだろう。 (体が覚えてる……?)  だったら、郁実を抱けば、俺のことを思い出してくれるのか?  俺と過ごした、あの日々を?  いや、と颯真は首を振った。  足と同じだ。  焦ると、きっとろくなことにならないだろう。 「五条さん、お湯が沸いてます」 「あ、うん」  想いを振り切り、颯真はケトルを持ち上げた。

ともだちにシェアしよう!