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第九章・4

 静かな室内に、コーヒーの香り。  二人は黙って、その味を楽しんでいた。 「五条さん」 「なに?」 「僕といて、退屈じゃないですか?」 「そんなこと、ないよ」  ああ、以前もこんな会話を交わしたっけ。 「むしろ、リラックスできて嬉しい。郁実と一緒なら、どんな環境でも素敵なのさ」  その言葉に、郁実は頬を染めた。  なんだか、口説かれてるみたい。 (何だか、前にもこんなことがあったような……) 『五条さん、父親の前で息子を口説くの、やめてくださいよ』 「父さん」 「ん? 何か言った?」

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