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第九章・5

 あ、いえ。  郁実は、慌てた。  まさか、人気俳優の五条 颯真が、僕のことを口説くだなんて。 「ご、五条さんは、好きな人とか、いますか?」 「いるよ」  ああ、やっぱり。  でも、誰だろう。 「ドラマや映画で、一緒に仕事をした俳優さんですか?」 「ううん、今は違う」  以前はそれなりに、派手に遊んだものだ。  付き合った人間もいれば、一夜限りの恋もある。  でも、今は。 「郁実は、どうなの? 好きな人、いる?」 「え、っと。あの、その……」

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