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第18話 元中納言は当主を責め苛む

「やめ……ッ、アッ、ア……ア、アアァ――――ッ……!」  押し返そうと伸びてくる両腕を掻い潜り、玄馬は高慢な当主を力づくで犯した。  長く太い凶器が身の内に沈み込んでくるのを、当主はなすすべもなく受け止めた。受け止める以外の選択は残されていない。従者の巨躯に退路を塞がれ、動かぬ足は大きく開かれて、濡れた窄まりを玄馬の前に差し出されているのだから。  切れ長の眦から涙が零れ落ちるのを見下ろしながら、玄馬は深く身を沈めていく。  宮中一の長身に比例してか、玄馬の男の部分は猛るとひどく凶暴な姿をとる。遊び慣れた女でも玄馬の全てを受け止められる者はそうそういなかったし、男も同様だ。情人であった緋立も、玄馬を心行くまで満足させることはできなかった。  太く長い雄鹿の角を収めていた白仁も、これほど奥まで犯されるのはきっと初めてだろう。  切羽詰まった叫びを耳にしながら、玄馬は身体を揺すって逞しい凶器を根元まで収めさせた。 「――――ッ!……ヒッ……ッ……ぁ……」  玄馬に深々と貫かれた白仁は、望まぬ相手に破瓜された姫君のように、開いた眼に涙を浮かべて自分を犯す男を見ていた。  薄く筋肉を乗せた胸が嗚咽するようにヒクついている。  浅い息を吐き、身を強張らせて、突然の衝撃をどう受け止めてよいかわからぬという風に、呆然と宙を見つめているのが哀れを誘った。  玄馬はその体を抱きしめ宥めるように頬に口づけした。今度はもう、慰めは要らぬと平手が飛んでくることはなかった。  欲望の全てを包み込まれる感触に、玄馬は熱い溜息を吐く。こうやって誰かの中に根元まで収まるのはどのくらいぶりだろう。  正妻を亡くしてから、玄馬は相手を苦しめるような交合は厳に慎んできた。己が自制さえしていればよいのだと欲望から目を背けて、相手を悦ばせる交わりばかりを繰り返してきた。  けれど、こうして余さず受け止められる満足感は他に例えようもない。天女と見紛う麗人を組み敷いてのことならば尚更だ。  膚は抜けるような白。黒子一つない肢体は、胸に二つの小さな淡色を持つだけで、他はどこも真っ白だ。滝のように広がる髪も白なら、長く影を落とす睫毛も色のない純白。僅かに色を持つ瞳は青灰色をしていたはずだが、今は血の色が透けて真紅に染まっていた。  異形と言えば異形の姿だが、怖ろしいとは思わなかった。このように美しい妖にならば、惑わされるのは男の冥利だ。  玄馬は笑みを浮かべ、額に貼りつく白い髪を指先で掻き分けてやった。 「ゆっくり息を整えると良い。まだ動きはせん」  初めて受け止めた体が辛いのは分かり切っている。痛めつけるような真似をするつもりはない。  玄馬の言葉を受けて、しゃくりあげるようだった呼吸が徐々に落ち着き、びっしりと汗を浮かばせていた白い顔からも苦痛の色が薄れていった。  息を整え、強張っていた身体から力を抜いて、白仁は玄馬の存在を自ら受け入れようとしている。初めはまるで生娘のような反応だと思ったが、こういったことに慣れているのだろう。 「……あ、ぁ…………んん、ッ!」  拒むようだった締め付けが緩むや否や、鼻にかかった声が白仁の口から漏れた。  濡れた肉襞は早くも玄馬の牡を揉みしだいて柔らかく愛撫しだした。大したものだと、玄馬は舌を巻く。  体の造りからすれば、女よりも男の方がより深くまで受け止められるのは道理だ。この美貌の青年も、今まで幾人もの男を通わせる中で、逞しい相手を受け入れるすべを身に着けたのだろう。  九重の当主は他者を拒絶する怜悧な美貌の裏に、男の精を求めて喰らいつくす淫婦の性を隠しているらしい。――かつて玄馬の腕の中で鳴いた年下の友と同じように。 「淫らで美しい方だ――佐保の君」  薄情だった友への腹立ちも込めてわざと女の名で呼ぶと、白く冴え渡っていた目元に朱が走った。  羞恥のゆえかそれとも屈辱にか。  血を昇らせた目元に口づけして、玄馬は体を一つ揺さぶって宣言した。 「動くぞ」 「……ッ、あ、あッ!」  告げてすぐさま揺さぶり始めると、長く形良い両腕が必死で玄馬の首にしがみついてきた。  やめてくれとの懇願が、紅い唇を彩ることはなかった。  玄馬が腰を突き入れると上擦った悲鳴が漏れる。奥を小刻みに責めると引き攣るような声を上げて仰け反り、身を退くと夢中で縋りついてくるのが可愛らしい。  とてもあの威勢のいい姫当主と同じ人物とは思えない。  ――あまりに可愛い姿を見せられたせいで、少し虐めてやりたくなった。 「ひッ……あ、あッ!……やぅぅ……ッ!」  大きく張った雁の部分で肉環を責め立ててやる。  慣れておらねば辛いばかりだろうが、あの鹿角を呑んでいた窄まりならば、こうして拡げられることに快楽を見出すに違いない。  案の定、悲鳴は直ぐに嬌声へと変わり、媚肉の環は玄馬を逃すまいと吸い付いてきた。小振りな尻の中には、淫具を用いるために十分な量の油も仕込まれていたようだ。浅く何度も出入りさせてやると、コポコポといやらしい水音を立てて粘液が溢れ出てきた。  玄馬はそれを指にとって、胸に咲いた小さな突起に塗り付ける。さて、こちらの感度はどうであろう。  肌の色が白い分、柔肉は明るい血の色に彩られていた。小さく慎ましい突起を指の腹に挟みこみ、ぬめる粘液を塗り付けると、白仁は消え入るような泣き声を上げて身を捩った。思った通り、乳首も感じやすいようだ。  白い腹の上で反り返ってプルプルと震える屹立にも、玄馬は手を伸ばした。  色素を持たぬ肉体は、こんな場所まで淡い色をしている。  トロトロと零れ落ちる蜜を指に取り、軽く上下に扱いてやるだけで、白仁の煩悶が明らかに激しくなった。 「い……いぃ……あ、ああん、んっ……逝く……もう、逝く、ぅ……ッ!」  甘たるい鳴き声を上げながら、引き締まった腹が波打つように上下する。  淫らな当主は腰を揺らして玄馬の手に屹立を擦りつけるが、溢れてくるのは緩い蜜ばかりだ。本人は精を放とうとしているのだろうが、極太の怒張に肉環を拡げられていては、いくら腰を振っても男としての終わりを迎えられる道理はない。行きつくところはもう決まっていた。 「……逝く、い、アッ、アッ、ヒッ、…………ァアア――――ッ!……」  高く迸る声とともに、玄馬の手に握られた屹立から、陥落の印の薄い蜜が噴き出した。 「あ、あ、あ……あ、ぁぁ……」  薄い瞼を閉じて、白仁が消え入るような溜息を吐く。  舞うように伸び上がる肢体、恍惚に蕩ける白い貌。  尊大な物言いさえ聞かずにいれば、まるで衣を失った天女そのものの艶姿だ。玄馬は感嘆とともに、組み敷いたしなやかな体を見下ろした。  身を滅ぼしても構いはせぬと、全てを差し出して膝を突く男はごまんといるだろう。大勢いる情人の一人にすぎぬと知りながら、吉野に君臨するこの姫王を己一人のものにしたいと願う男も。  玄馬もまた、そのような愚かな男の一人になったようだ。  ビクビクと慄きながら絶頂を極めている身体を抱き寄せ、玄馬は腰を深く突き入れた。余韻に沈み込んでいこうとしていた白仁が、上擦った悲鳴を上げて涙に濡れた目を開く。 「なっ……な、にを……!?……」  力ない両脚を引き寄せて、玄馬は無言のまま律動を刻み始めた。  いつの間にか従僕の姿は消えていた。見下ろしているのは鈍い光を放つ銅鏡だけだ。  茫洋としていた両目が、瞬きを繰り返すうちに鮮やかな紅を取り戻した。消えていくはずの絶頂感が舞い戻ってきたことに、白仁が不安そうな表情を見せたのは束の間だった。 「……あ、あぁ……凄い……まさかこんな、こんな……ッ」  白く冷たい美貌が蕩けるような艶を帯びる。不自由な体を揺らして、白仁は悦びを貪り始めた。  玄馬の首に両手でしがみつき、動きに合わせて尻を振る。  時折深いところを抉ってやると高い声を上げて啜り泣くが、やめてくれとも許してくれとも乞いはしない。  柔らかな肉襞は並外れた玄馬の逸物を全て受け止め、うねるように応え始めた。 「く……ッ」  堪らず、玄馬は噛み締めた歯の間から呻きを漏らした。  呑み込まれるような底なしの体だ。濡れた肉が玄馬の怒張に絡みつき、しゃぶるように吸い付いてくる。  初めの挿入を泣いて苦しんだのが嘘のように、もはや玄馬の大きさに馴染んだ媚肉は、奥へ奥へと誘い込むように蠢いていた。 「あぁ……ああぁッ、また……また、気を遣、る、ぁああああぁ、いくぅ――ッ……ッ」  頼りない声で白仁が法悦を訴える。腹の上に新たな蜜が零れ、玄馬を呑んだ肉の環が精を搾り取ろうと締め付けてきた。  滅多なことでは余裕を失わぬ玄馬が、年端もいかぬ小童のような焦りを覚えた。まだまだもっと啼かせて、玄馬なしではいられぬような体にしてやるつもりであったのに。もう持ちそうにない――。 「玄馬……玄馬ッ……」  白仁の口から己の名が呼ばれるのを聞きながら、玄馬は抱きしめた体の中に思うさま精を弾けさせた。

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