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第20話 元中納言は甘露を味わう
衣擦れの音とともに袴の紐が解かれていくのを、紅い瞳が睫毛を震わせて見つめている。
玄馬は向かい合う位置に移動すると、床に手を突いて上体を起こした白仁の目の前で、艶やかな緋の袴を抜き取った。
「あぁ……」
感嘆の息は、玄馬の口から漏れた。
濃紅の袿の上に、長くすらりとした両脚が伸びている。従僕によってよく手入れされた下肢は、これが動かぬ不具の脚とは信じがたい形良さだ。
痛みや感覚はあるようだが、自身ではほとんど動かせぬのは玄馬ももう知っている。玄馬は両膝を折り曲げ、白仁の欲望の証が良く見えるように足を開かせた。
「玄馬ッ!」
悲鳴のような声で、白仁が名を呼ぶ。玄馬はその唇に人差し指を当てて沈黙を促した。
「今は日が高い。陽射しが眩しくて、明神様もこちらの様子はご覧になれまいよ。……貴方が声さえ我慢なされれば」
白仁の紅い瞳が泣きそうに潤んだ。
この家が祀る明神のことを、玄馬は詳しくは聞いていない。
ただ吉野の山に坐す神が加護を与えるのは、女人に限っているということは教えられた。
そのため当主の白仁は女名を用いて姫装束に身を包み、月に何度かある祭日の夜には神酒と舞を捧げて、明神の加護が続くことを祈念しなければならないのだと。
舞、というのが性を女と偽るための淫らな遊戯であることは既に知っている。あの夜以降祭日のたびに、玄馬は本殿に同行し、白仁を『女』にして啼かせているからだ。
佐保という名の巫女姫は、玄馬の凶器のような逸物を呑み込んで艶やかに舞い踊る。しかし与えてよい快楽は女としてのものだけだ。当の白仁自身から、神事では吐精を導くことは決してならぬと、玄馬はきつく言い渡されていた。
――もしも明神に当主が男であることを知られれば、九重の一族は加護を永遠に失ってしまうからと。
「このように立派なおのこをお持ちなのにな」
「……ッ」
天を仰ぐ屹立を手に握って、玄馬はゆっくりと上下に扱いた。
下肢が萎えて動かせぬ白仁だが、肉茎は並の男に少しも引けを取らない。
ただ体の色素が薄いせいで、この部分も淡い血の色をしているのが、まるで初心な童の持ち物のようで稚い。少し弄ってやるだけで、すぐにプルプルと震えて先走りの蜜を滲ませるところもだ。
「……は……ぁ、あぁ……」
甘い吐息が玄馬の耳を擽った。
玄馬は性急な情事を好まない。相手が男であれ女であれ、心行くまで法悦に酔えるよう、前戯の愛撫を惜しみもしない。並外れて大きな自身で苦しめてしまうのを知っているから、せめて少しでも深い快楽に酔わせてやりたいのだ。
「……玄馬……、お……奥の穴、も…………」
先走りが玄馬の指をしとどに濡らす頃、袖で美貌を隠した白仁が囁くような声で乞うた。
「……奥も、触ってほしい……気持ち良う、して……」
閨での白仁は従順で、快楽に素直だ。恥じらいながらも、淫らな言葉と媚態で男を巧みに誘ってくる。
本殿での慣れた様子と言い、今までも何人もの男と交わってきたのだろう。だが、それはもう過去の話だ。
今白仁を抱いているのは、玄馬只一人だった。
それが嬉しくて、玄馬はゆっくりと顔を近づける。
「くろうま……ッ!?」
白仁が困惑の声を上げた。
それに構わず、玄馬は身を屈めて雫垂らす白仁の先端を口に含んだ。同時に、濡れた指をヒクつく窄まりに埋めてやる。
「ひぅ、う……ッ! あ、あ、あッ、そんな…………ッ」
切羽詰まった声を上げ、白仁が後ろざまに倒れていく。体を支えていた腕が力を失ってしまったのだ。長い髪が磨かれた床の上を滑って広がった。
玄馬は絵巻物にも描けぬその光景に目を細めながら、口の中のものに舌を這わせる。
括れを辿り、裏筋を舐めながら深く咥えてやると、くぐもった悲鳴とともに指を呑んだ後ろの口がキュッと窄まった。
中にある白仁の好い場所も良く知っている。曲げた指でそこを何度も撫でてやると、口の中の砲身がピクピクと上下に揺れ、緩い蜜が溢れ出てきた。玄馬は蜜を吐き出す小さな穴に舌先を潜らせる。
「ひゃ、やッ、やめ、よ……やめて、くれ……もう、ぅッ……!」
袖の下から泣きだしそうな声がした。
神事の際に男としての満足を許されぬ白仁は、こちらを嬲られることに慣れていない。それに、吐精を果たすことへの本能的な畏れを幼少の頃から擦り込まれているのだろう。
「もうならぬ……! でる……でてしまう…………やめて、くろうま……ッ」
ついに許しを請う啜り泣きが袖の下から漏れてきた。
脚が動かぬ白仁には、玄馬の腕から逃れるすべがない。衣の裾を踏まれれば、もうそれで身動きできぬのだ。後は言葉で縋るしかない。
高圧的な物言いが鳴りを潜め、力なく哀願するしかない白仁を、玄馬は憐れにも愛おしくも思う。
美しく気高い白仁が見せる、か弱い一面が、胸が潰れてしまいそうなほど愛しくてならないのだ。
「出せばいい。明神様に知られぬよう隠してやる」
「く、ぅ……ッ」
今までの恋人の誰にもしてやったことがないほど、玄馬は情熱的に舌を絡めて啜り上げた。
昨夜も玄馬の怒張を呑んだ肉壺が、前への刺激に呼応して、玄馬の指を柔らかく食む。昨夜白仁を散々啼かせた場所を指で探ると、口の中の肉茎がヒクヒクと跳ねた。
玄馬が毎夜の如く夜這うのは、日を置けば並外れた大きさが相手を苦しめてしまうからでもあったが、他の男を求めさせぬためでもあった。
何人いるかわからぬ過去の男たちが憎らしい。無垢の肉体を、これほど熟れた蜜壺に変えてしまったのは、果たして何人目の男なのだろうか。
過去を変えることができぬのなら、せめて最上の快楽を以て、過去の全てを塗り替えてしまわねば気が済まぬ。
「で、る……ッ! もう……もうッ……ッ!」
切羽詰まった泣き声とともに、玄馬の口の中の物が伸び上がるように突っ張った。吐精すまいと堪え続けた白仁だが、ついに限界を迎えたのだ。白い内腿がビクビクと震える。
玄馬は跳ねる肉棒を叶う限り深く覆うと、頬を窄めて唇を滑らせた。
「……アッ、ア――――ッ!……ア――――ッ……!……」
絶頂の叫びが几帳の帳を震わせる。
口の中に勢いよく迸ってきた精を、玄馬は息を詰めて飲み下した。一滴残らず始末してやれば、明神の目を怖れることもあるまい。
うわ言のように己の名が紡がれているのを聞きながら、玄馬は口の中で勢いを無くしていくものを労わるように、最後の一雫をそっと吸い上げた。
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