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クチュクチュと、唾液の絡む音が鼓膜にまとわりつく。
先生の吐息が熱っぽくて、つられるように、俺の心拍数も上がっていく。
日本語にして考えろと言われたから、忘れないようにひとつひとつの感触を確かめていて、そうすると、違う意味で気持ちよくなってきてしまって、泣きたくなった。
「ん……、せんせい、もういい」
「覚えた?」
「なんか変で、だからもういいです。ちゃんと書けなかったらごめんなさい」
無理やり腕を突っ張って体を離そうとしたら、抱きしめられた。
「なんか変って何?」
答えたくなくて、うつむく。絶対顔が赤い。
「大河」
呼ばれて少し顔を上げたら、先生は、全部分かってるっていう目をしていた。
「僕は欲深いよ。そうでなくちゃ、作家なんてやってられない。君も作家を目指すなら、自分が何を欲しくて、どうされるのが良くて、何に満たされたいのかをきちんと知らないと」
「えっと……」
泣きそうになりながら答える。
「先生にキスされて、気持ちよくて、勃っちゃって……でもどうしたらいいかは分かんないです」
「素直でよろしい」
浴衣の中に、するりと手が差し込まれた。
「……っ、」
肩口がパサッと落ちて、上半身が露わになる。
先生は、ふむ、とひとことつぶやいたあと、電気を消した。
再び俺の前に座る。そして、しげしげと眺めたあと、満足そうに笑った。
「思った通りだ。君の丸い肩に月明かりが落ちてね、とても綺麗だよ」
「あの、先生」
「錦上 添花 」
「え?」
先生は、俺の鎖骨の下にくちびるをつけた。
「美しいものに、さらに美しい花を添えること。ひとつ物知りになったね、大河」
ちゅうっときつく吸われて、先生の顔が離れると、そこに赤い痕がついていた。
「もっと散らそうか。君の肌は白いから、よく映える」
背中をなでまわされながらあちこちを強く吸われると、昂 りで体が震えた。
「ぁ、……はぁ、先生」
「どうなるのか、結末を知りたいかね?」
息を詰めたまま、こくこくとうなずく。
「いいもんだよ、他人に絶頂へ導いてもらうのは」
はらりと帯が解かれた。
「ひざ立ちになってごらん。それで、僕の首の後ろに手を回しなさい」
言われた通りにすると、下着をずらされて、固くなったペニスが暴かれた。
「いいかい? 僕の感触を、ちゃんと覚える。それから、気持ちよければ気持ちいいと素直に言う。鳴きたかったら鳴きなさい。分かったね?」
「はい」
ペニスにそっと手を添えられたら、その温かさだけでビクッとしてしまった。
「可愛いよ、大河」
手でしごきながら、くちびるを乳首のあたりに寄せてくる。
「手の動きと、舌やくちびるの感触と。ちゃんと味わったら、気持ちいいから」
「ぅあ……」
音を立てて乳首を吸われて、上ずった声が出た。
緩急つけてこすられると、自分のものじゃないみたいに熱く感じる。
呼吸を乱しながら先生の顔を見ると、青白い月光が、するりとした肌に艶やかな影を落としていた。
光を映した瞳は黒いガラス玉のようで、見つめていると、ドキドキと鼓動が高鳴っていく。
「ん、……先生、気持ちいい」
「大河、君は本当に可愛らしい。どうしてくれようか」
「はぁ、ぁ、……っん、はあ。先生、おれ、」
他人の手が、というか、先生の手が、あまりにも気持ちいい。
まだ触られてちょっとも経っていないのに、もうけっこう限界で、泣きたくなってくる。
「あ、せんせ、……っもうダメかも」
「いいよ。おいで」
「なまえ……呼んでください」
何でだか分からないけどそうして欲しくて、泣きそうになりながらお願いすると、先生は面食らったような顔をしたあと、眉間にしわを寄せた。
「大ばか者。ひとたらし。あとは何だっけ」
「ん、ん……ッ、ぁっ」
先生は俺の頭を掴んで引き寄せて、耳元でささやいた。
「大河」
「……っあ、イッ…、っ……!ぁあ……!…っ……ぁあ!……ッ」
体を弓なりに反らして、熱を放つ。
長い長い絶頂のあと、全身の力が抜けて、ひざから崩れ落ちた。
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