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四つん這いにと言われ、その通りにしたら、とんでもなく気持ちよかった。
背中を弓のようにしならせて、はしたなく喘ぎながら、お尻を突き出す。
何をされるのか、先生がどんな表情なのかが分からないから、ただ与えられる快楽を受け止めるだけ――もちろん、受け止め切れるわけがない。
「うん、良い眺め」
「あんッ、先生、……はぁ、ん」
「少し勢いをつけるよ。苦しかったら言って」
腰をがっしり掴み、引き寄せるように小刻みに腰を振る。
「ぁっ、あっ、きもち……、ん、ンッ」
「あー……大河、っ、これは……」
「ん、っ先生、気持ちいい?」
「うん」
短く答えると、さらに突き上げるように激しく打ち付けてくる。
「はあっ、は、ぁあッ、やだ、きもちい、気持ちいい」
「罪深いほど可愛らしい」
そう言う先生も余裕がなさそう。息が上がっている。
気持ちよすぎて耐えきれずにぶんぶんと首を横に振ると、先生は俺の口に指を2本突っ込んだ。
強制的に顔が持ち上がり、口が開く。
部屋の隅の鏡台に、自分と、見たこともない艶かしい顔をした先生が映っていた。
「あ……あ、ぁ」
恥ずかしいからやめて欲しいと言いたいのに、それも叶わない。
先生はそのまま、一定のリズムで腰を振り続ける。
パンパンという肌同士の当たる音が、いやらしい。
唾液が口の端からこぼれて、もう見ていられないと、目を固くつぶった。
指を引き抜かれる頃には、先生の呼吸に少しうめき声が混じっていて、そろそろイきたいのかなと思う。
「大河……体位を変えようか。顔が見たい」
俺が仰向けになって向かい合うようにすると、先生は額にしっとりと汗をかいていた。
スピードをつけて、ガンガンと打ち込まれる。
「ひぁ、あッあぁ……っンッ」
「自分でしごいて、精子出して」
「え、やだ……っ、恥ずかしい」
「ぎゅうぎゅうしめられてイキたいんだ」
眉根を寄せて懇願されたら、断ることなんてできない。
それに、自分もあと少しで達してしまいそうな感じはしている。
とてつもなく恥ずかしく思いながら、ペニスと乳首に手を伸ばした。
「ああ、んっ、ん、あッ」
後ろを突かれながら、自慰。恥ずかしいのが興奮を誘って、すぐに限界を迎える。
「も、……出ちゃう、ン、んんッ」
「いいよ。見せて」
「ぁあ、はぁっ、あ……、あ、ああっ!……!っ……!」
ドクドクと熱を吐き出しながら、波打つように全身をビクつかせる。
先生は、激しく打ち付けながら、うめいた。
「……っ、…………ッ」
お腹の中で、先生のものが脈打つのを感じた。
最近ひとつ、覚えたことがある。
それは『甘える』ということ。
客布団を並べようとする先生の手を阻止して「一緒にひとつの布団で寝たい」とわがままを言ってみたら、狭いだの暑いだの言いながら、布団に入れてくれた。
「先生とくっついて寝るの、気持ちいいです。ほっとする」
「犬みたいだね」
「だって俺、先生のこと好きです」
「よしよし」
本当に犬をなでるみたいにわしゃわしゃされて、くすぐったくて笑ってしまった。
「きょう僕はね、陽彦くんのところへ君を連れて行って、良かったと思うと同時に、少し後悔した」
「何でですか?」
「陽彦くんの見解はとても正鵠 を射たもので、君の文章の最大の弱点を突いたものだった。良いアドバイスをもらえて、為になっただろう。それに、あの空間は好奇心を誘うから、君には良い刺激になったに違いないと思いました。連れて行って良かった。けどね」
先生は真顔でじーっと見たあと、ちょっとむくれて言った。
「嫉妬した」
「は?」
「何。君、楽しそうに話して」
「え? 何言ってるんですか? 普通に話してただけっていうか、むしろ俺がうまくしゃべれないから福地さんが気を遣って……」
先生は、俺の頬をむいっと掴んだ。
「君はね、大人に世話を焼かせる才能がある。彼にしろ愛美にしろ、やたらに君を可愛がるじゃないか」
「そんなの知りませんよ」
「可愛げが憎たらしい」
「痛たたた、やめて」
本気で引っ張られて、痛い。
「僕は、君が大人になって社会に出て行ったら、見知らぬ誰かへの嫉妬に苦しんで生きるんだろうか。毎回目の前でさくらんぼを食べさせるわけにはいかないよ」
……理解不能。本当にこのひとはカウンセラーなんだろうか。
さくらんぼを口移ししたのは、俺が福地さんと話してるのにやきもちを妬いたから?
「俺の好きなひとは先生ですよ。別のひととしゃべってても、好きなのは先生です」
ひりひりする頬をさすりながら言ったら、先生は、少し目を丸くしたあと、恥ずかしそうに目をそらした。
俺は、先生の背中に手を回し、ちょっと体を寄せる。
「確かに俺は、大人から見たら世話を焼かせちゃうような頼りないヤツなのかも知れませんけど、こんな風に甘えたいのは先生だけです」
首元にぎゅうっと顔を押し付けると、先生は、おずおずと抱きしめてきた。
「……君に新しい課題図書を思いついた」
「何でしょう?」
「土井健郎の『甘えの構造』及び、その話の発端になっている九鬼周造の『いきの構造』を読んで、僕に甘えることが大河少年の人格形成にどう影響を及ぼすかをまとめてきなさい」
う。小説以外の本を読むのは苦手だ。
「うまく書けたら、陽彦くんのレアチーズケーキをおごってあげよう。おいしいよ」
「……また連れて行ってくれるんですか?」
「うん」
「やきもち妬かない?」
「妬かない」
「キスとかしないでくれますか?」
「それは分からないよ」
当然のように言う先生に対して、少しすねてみせる。
「先生とキスするところ、他のひとに見せたくないです。ふたりの内緒にしたい」
上目遣いで見てみたら、先生は「大ばか者」と言って、食べるみたいに口をふさがれた。
<謎④ 坂の途中でコーヒー 終>
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