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6-4
温泉旅館に来た俺たちだったけど、ひとつ、重大な問題を抱えていることに気付いた。
先生は長風呂が苦手。
俺も、宿を取った先生すらもすっかり忘れていて、ちょっと笑ってしまった。
「あづい……」
「無理しなくていいですよ。先に上がって、マッサージチェアにでも座っててください」
「むう」
先生は、恨めしそうに俺の顔を見る。
「なんですか?」
「君、肌が白いでしょ。いま、すごく良い感じに火照って、なんだか牡丹 の花みたいだからもっと見……」
「わー!」
思わずバシャッとお湯をかけた。他のお客さんに聞かれたらたまったもんじゃない。
「何するの」
「変なこと言うから! その、か、薫さんが……」
外で先生と呼ぶのはまずいと思ったので、とっさにそう呼んだ。そして、慌ててうつむく。
先生が何も言わないので、絶対笑われてると思って顔を上げたら……めちゃくちゃ照れていた。
「先に上がるけど。君、ちょっと今晩は覚悟してお……」
「だっ、からぁ!」
ぶっかけようとしたお湯をひらりとかわして、先生はさっさと上がってしまった。
覚悟ってなんだろ……。
お風呂から上がると、自販機の前に先生が立っていた。
そしてその横に、知らない女のひと。たぶん20代半ばくらい。
女性は明らかにぶりっこしていて、『ああ、逆ナンパか』と、すぐに理解した。
角度的に先生の表情はうかがえないけど、ミックスジュースのパックを持ったまま微動だにせず見下ろしているので、迷惑なんだろうなと思う。
面白そうなのでそーっと、後ろから近付……こうとしたけど、気配でバレた。
「大河」
「わっ」
文字通り、首根っこを捕まえられる。
「あ、おひとりじゃなかったんですね……」
「ええ、子守旅行ですので。それじゃ、ごきげんよう」
俺の手首を掴んで、スタスタと歩き出す。
俺は振り返りながら女性に少しだけ頭を下げて、足がもつれないように小走りに追いついた。
「盗み聞きするつもりだったの?」
「すいません、つい出来心で」
「ほんとに、覚悟しなされ」
部屋に着き、ドアを開けたところで、ドンと押された。
「わっ」
よろめきながら入ると、先生は雑に鍵をかけて、ルームキーとジュースをぽいっと置いた。
そして、電気もつけずに、そのまま俺を横抱きにする。
「イタズラを企てる君も可愛いんだから、僕の恋煩 いは重症かな」
つぶやいた先生は、俺を布団のうえに仰向けに寝かせた。
「めちゃくちゃに抱くよ」
「えっ?」
「覚悟しなさいと言ったでしょ。可愛い言動を繰り返すのが悪い」
罪って何だ、と聞く暇も与えてもらえなかった。
「ん……っ」
くちびるを吸われる。
音を立てながら先生の薄いくちびるに挟まれると、それだけで興奮してきた。
あたたかい舌が侵入してきて、口の中のあちこちを探る。
それだけ気持ちよくて、先生の背中にしがみついた。早くも呼吸が荒い。
「はあ、はぁ……んっ、はあ」
「どこを触られたい?」
「ん、胸……とか、下のとこ」
先生は返事代わりとばかりに、浴衣の襟元に手をかけて、左右に開いた。
そして、乳首をペロッとなめる。
「……ぁっ」
舌先でチロチロとなめられると、か細く声が漏れてしまう。
「期待してた?」
こくりとうなずく。
期待していたから、早く吸ったり噛んだりして欲しい。
「めちゃくちゃに抱くと宣言したからね。こっちも、下も。たんと味わいなされ」
先生はそう言って、乳首を口と指で愛撫しながら、ゆるやかに立ち上がったペニスに手を伸ばす。
大きな手で包み込まれたら気持ちよくて、吐息が漏れた。
めちゃくちゃに……なんて言ったけど全然そんなことはなくて、体の隅々まで愛撫される。
丁寧すぎて、もどかしくなるくらい。好きな気持ちがあふれてくる。
「先生の、なめたいです」
俺の口で気持ち良くなって欲しくて聞いてみたら、先生は目を細めて笑って、こくっとうなずいた。
ひざ立ちになる先生の前で背を丸めて、口に含む。
半勃ちだったものはすぐに固くなって、俺の口の中で主張した。
頭を前後しながら、舌で形を確かめるようになめる。
じゅぼじゅぼと音を立ててみると、先生は俺の髪にくしゃっと手を差し込んで、しみじみと言った。
「少し抱きしめただけで顔に紅葉を散らしていた君が、こんな風になるとは……ねえ」
「それってダメなことですか?」
口を離して聞いてみたら、先生は眉間にしわを寄せた。
「なぜそうなるの」
「だって先生、俺のこと、無垢でウブなのがいいみたいなこと言ってたような……」
少し不安になって聞いてみたら、先生は、艶っぽく笑った。
「淫 らな大河も好きだよ。だってこんなのは、僕しか知らないじゃない」
「先生にしか見せられないし見せたくもありません」
再び口に含むと、先生は、気持ちよさそうにすーっと長く息を吸った。
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