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 温泉旅館に来た俺たちだったけど、ひとつ、重大な問題を抱えていることに気付いた。  先生は長風呂が苦手。  俺も、宿を取った先生すらもすっかり忘れていて、ちょっと笑ってしまった。 「あづい……」 「無理しなくていいですよ。先に上がって、マッサージチェアにでも座っててください」 「むう」  先生は、恨めしそうに俺の顔を見る。 「なんですか?」 「君、肌が白いでしょ。いま、すごく良い感じに火照って、なんだか牡丹(ぼたん)の花みたいだからもっと見……」 「わー!」  思わずバシャッとお湯をかけた。他のお客さんに聞かれたらたまったもんじゃない。 「何するの」 「変なこと言うから! その、か、薫さんが……」  外で先生と呼ぶのはまずいと思ったので、とっさにそう呼んだ。そして、慌ててうつむく。  先生が何も言わないので、絶対笑われてると思って顔を上げたら……めちゃくちゃ照れていた。 「先に上がるけど。君、ちょっと今晩は覚悟してお……」 「だっ、からぁ!」  ぶっかけようとしたお湯をひらりとかわして、先生はさっさと上がってしまった。  覚悟ってなんだろ……。  お風呂から上がると、自販機の前に先生が立っていた。  そしてその横に、知らない女のひと。たぶん20代半ばくらい。  女性は明らかにぶりっこしていて、『ああ、逆ナンパか』と、すぐに理解した。  角度的に先生の表情はうかがえないけど、ミックスジュースのパックを持ったまま微動だにせず見下ろしているので、迷惑なんだろうなと思う。  面白そうなのでそーっと、後ろから近付……こうとしたけど、気配でバレた。 「大河」 「わっ」  文字通り、首根っこを捕まえられる。 「あ、おひとりじゃなかったんですね……」 「ええ、子守旅行ですので。それじゃ、ごきげんよう」  俺の手首を掴んで、スタスタと歩き出す。  俺は振り返りながら女性に少しだけ頭を下げて、足がもつれないように小走りに追いついた。 「盗み聞きするつもりだったの?」 「すいません、つい出来心で」 「ほんとに、覚悟しなされ」  部屋に着き、ドアを開けたところで、ドンと押された。 「わっ」  よろめきながら入ると、先生は雑に鍵をかけて、ルームキーとジュースをぽいっと置いた。  そして、電気もつけずに、そのまま俺を横抱きにする。 「イタズラを企てる君も可愛いんだから、僕の恋煩(こいわずら)いは重症かな」  つぶやいた先生は、俺を布団のうえに仰向けに寝かせた。 「めちゃくちゃに抱くよ」 「えっ?」 「覚悟しなさいと言ったでしょ。可愛い言動を繰り返すのが悪い」  罪って何だ、と聞く暇も与えてもらえなかった。 「ん……っ」  くちびるを吸われる。  音を立てながら先生の薄いくちびるに挟まれると、それだけで興奮してきた。  あたたかい舌が侵入してきて、口の中のあちこちを探る。  それだけ気持ちよくて、先生の背中にしがみついた。早くも呼吸が荒い。 「はあ、はぁ……んっ、はあ」 「どこを触られたい?」 「ん、胸……とか、下のとこ」  先生は返事代わりとばかりに、浴衣の襟元に手をかけて、左右に開いた。  そして、乳首をペロッとなめる。 「……ぁっ」  舌先でチロチロとなめられると、か細く声が漏れてしまう。 「期待してた?」  こくりとうなずく。  期待していたから、早く吸ったり噛んだりして欲しい。 「めちゃくちゃに抱くと宣言したからね。こっちも、下も。たんと味わいなされ」  先生はそう言って、乳首を口と指で愛撫しながら、ゆるやかに立ち上がったペニスに手を伸ばす。  大きな手で包み込まれたら気持ちよくて、吐息が漏れた。  めちゃくちゃに……なんて言ったけど全然そんなことはなくて、体の隅々まで愛撫される。  丁寧すぎて、もどかしくなるくらい。好きな気持ちがあふれてくる。 「先生の、なめたいです」  俺の口で気持ち良くなって欲しくて聞いてみたら、先生は目を細めて笑って、こくっとうなずいた。  ひざ立ちになる先生の前で背を丸めて、口に含む。  半勃ちだったものはすぐに固くなって、俺の口の中で主張した。  頭を前後しながら、舌で形を確かめるようになめる。  じゅぼじゅぼと音を立ててみると、先生は俺の髪にくしゃっと手を差し込んで、しみじみと言った。 「少し抱きしめただけで顔に紅葉を散らしていた君が、こんな風になるとは……ねえ」 「それってダメなことですか?」  口を離して聞いてみたら、先生は眉間にしわを寄せた。 「なぜそうなるの」 「だって先生、俺のこと、無垢でウブなのがいいみたいなこと言ってたような……」  少し不安になって聞いてみたら、先生は、艶っぽく笑った。 「(みだ)らな大河も好きだよ。だってこんなのは、僕しか知らないじゃない」 「先生にしか見せられないし見せたくもありません」  再び口に含むと、先生は、気持ちよさそうにすーっと長く息を吸った。

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