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6-5
お互い裸になって、仰向けに寝転がる俺の上に、先生が覆いかぶさっている。
旅館にふたりきりの旅行。
非日常のシチュエーションに、いまさらながらドキドキしてしまう。
「さて、お待たせして悪かったね。めちゃくちゃに抱きましょうか」
「え……? あれ、まだ有効だったんですか?」
前戯が丁寧すぎて、冗談だったのかと思っていた。
既に身体中にキスマークが散っていて、ペニスは達する寸前で止められてガチガチだし、後孔は時間をかけてぐずぐすにされていて……このまま優しくされるのかな、なんて思っていたくらい。
「無効にした覚えなんてないんだけど」
先生は、まるで理解不能といったような表情で俺の目をじっと見下ろしながら、くるくるとコンドームをつけた。
そして、入り口に先端をピタッと当てる。
「……ん」
早く挿れて欲しくて、少し腰が浮いてしまう。
「いい反応だね」
慈しむような表情にゾクゾクする。
脚を抱えられたと思ったら、何の前触れもなく、一気に貫かれた。
「ぁああッ」
思わずあごが跳ね上がる。そのまま、激しい律動。
「あぁっ、ん、はぁッ、あっ」
体全部が揺すられて、お腹の中が熱い。
乳首をぎゅうぎゅうと引っ張られたら、背中が弓なりに反った。
手前の良いところに当たって、あられもない声が出る。
「あんッ、ン、はあっ、ぁあっ、せんせ、ぁあ」
「燃える紅葉」
先生はそうつぶやいて、俺の腰をがっちりホールドし、巧みに中を突いた。
先生が何のことを言ったのかは分かる。めちゃくちゃ顔が熱い。
「大河。先生と呼ぶのはよして、名前で呼んでくれないかな」
「ん、んっ」
目をギュッとつぶったまま、こくこくとうなずく。
「僕を見て。呼んで?」
「……薫さん、かおるさ、はぁっ、薫さんッ」
何度も呼びながら背中にしがみついたら、先生……薫さんの熱い吐息が頬にかかって、結ばれているのだという実感がさらに昂 りを呼び起こした。
「ぁあ、薫さん、好き、すき……っ、ん、好き」
「可愛い」
何度も何度も中を突かれて、その度に、薫さんと俺のお腹の間でペニスがこすれる。
全然手加減なし。ずーっとトップスピードで、時間の感覚が分からなくなってくる。
「っ、はあ、ん……はぁっ、もう、イッちゃう……」
乱れた呼吸で訴えたら、薫さんは上半身を起こし、腰を押さえつけるように支えて、勢いをつけてガンガンと突き上げてきた。
「ぁあっ……ッん、ああ!……、イッ……く、……ああぁっ!……っ……!………ッ」
シーツを握りしめたまま、何度もビクビクと熱を吐き出す。
俺が全部放ったあとも、薫さんは同じ速度のまま腰を振り続けていて……めちゃくちゃに抱くってこういうことか。
「あ、……かおるさん、すき、……かおるさ……っ」
飛びかけの意識のなか、自然と口から漏れてくる。
そして、そんなうわ言みたいな呼びかけにも、薫さんは優しく返事をしてくれる。
「大河。好きだ。離さないよ」
腰を振るスピードが徐々にゆるまり、奥へ深く挿し込んだまま止まったと思ったら、ぎゅーっと抱きしめられた。
力の入らない腕で背中に手を回すと、薫さんはゆるっと笑った。
「まだ、どうして君を好きになったかを言っていなかったね」
「……ん、」
「聞こえてる?」
「はい」
俺が辛うじて意識を保っていることを確認した薫さんは、クスッと笑って俺の頭をなでた。
「忘れられないよ。弁財天の前で君が言ったの。『人間的に面白くなるのと作家になるのとどっちが難しいかって考えたら、作家になる方が現実的な感じがします』って。僕はそれを聞いて、誰も知らない幻の玉手箱を見つけたような気持ちになった」
「なにそれ……わかんないです」
回らない頭で記憶を呼び起こしてみたけど、薫さんは、ただ面白がっていただけだったような。
「僕は作家だしカウンセラーだから、観察者でいなければならないんだよね。でも君はそうさせてくれない。君の前では僕はただのひとりの人間で、君が相談室に来るたびドキドキした。稚 い子供相手に何を馬鹿なと、何度も自分を叱りつけたけどね。ダメだったよ」
そう言って薫さんは、目を伏せ、困ったように笑った。
ずっと一緒にいたはずなのに、初めて愛の告白をされているみたいな気分になって、照れてしまう。
「書生にならないかと言ったのは、君の夢の手伝いをしたかったからだよ。これは天に誓って、本当。だけど、レターズに連れて行ったのと家に呼んだのは、大人のズルい下心だね。だまされて運が悪かったと思いなされ」
眉をひょいっと上げておどけてみせるのを、俺は笑いながら言い消した。
「全然、運悪くないです。初めて好きになったひとが薫さんで良かったから。それに、誰かに大切にされたのも、初めてが薫さんで。うれしい」
背中に回した手にぎゅーっと力を込めて抱きしめたら、薫さんは、優しくキスしてくれた。
「……本当に可愛い子だね。一生大事にするよ」
言いながら、またゆっくりと動き出した。
徐々に速まっていく腰つきに体は素直に反応して、息が乱れる。
何度も何度も名前を呼ばれてゾクゾクして、体の中心はすぐに熱を帯び始めた。
「ぁ、はぁ、薫さん……もっかいイキたい」
「うん。なら、君の絶頂を見届けて、僕も果てることにしようかね」
1番良いところに当てながら、中をえぐるように奥へ。
同じ動きを繰り返しながら呼吸を荒げる薫さんの表情を見て、たまらなくなった。
「ン、ん、……はぁ、あ、……きもち、ぁあ」
「……大河っ」
「あぁッ、もうイク、イッちゃいます」
「ぅ……僕も結構、はぁ、限界」
「んぁあっ、イクッ……ぁあッ!……あ……ッ……!……っ」
派手に熱を散らすと、薫さんもうめいた。
「ぁあ、……大河、……ッ、大河……っ……!」
ガンガンッと最奥に打ち付け息を詰める薫さんに、長く長く抱きしめられた。
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