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10 その他大勢

「ところで君、バース性は?」 「……βです。てかそれ採用に関係あるんですか?」  伊吹は店内を案内しながらなんとなしに俺に聞いた。咄嗟にβだと口にしたものの、端から正直にΩだと言うつもりもなかったからこの話題から早く逃れたかった。そもそも他人のバース性をストレートに聞く行為も多少なりともタブー視されていたのもあり、俺は少し刺のある言い方をし牽制した。 「そりゃ大事なことだろうよ。特にΩな、こればっかりはちゃんとしてやんなきゃ。万が一があっちゃダメだけど、何が起こるかわからねえだろ? 店の責任者でもある俺だけでも、把握しておけば対処のしようがあるってもんだ」 「はぁ、そういうもんですか……」  聞きながら適当に返事をした。確かに店の性質上、色目を使う客も多い。親密な接客をしなくてもいいとはいえ、客相手に会話もするのだから好意を持たれたり持ったりする事だってある。伊吹はそういったことで発生するトラブルの事を言っているのだと思い、俺はまた馬鹿正直に口を開いた。 「ならΩなんて絶対採用できませんね。トラブルのもとだ……そんな奴、いない方がいい」  自分で言っていて少し悲しくなる。でもそういう事だ。この身に起きたあの日のことを思い返し、悔しさが蘇る。自分でも制御できず、周りを巻き込んでしまう忌まわしき性。圧倒的に悪者になる、誰よりも劣等な人種…… 「は? それ本気で言ってるのか? バース性なんて関係ないだろ、Ωは悪くない。そんな差別発言、俺は嫌いだな」  伊吹は「それにそういうことを言ってんじゃねえんだよな」と呟き、プイッと店の奥に歩いていってしまった。俺は慌てて後を追い事務所に入ると、椅子に座っている伊吹に頭を下げた。 「すみません……俺、言いすぎました」 「いや、いいんだ。はっきりしていて気持ちがいいよ。それにΩはどうしたってそういう風に見られてしまうのはわかってる。だって世の中の皆、自分らの周りにΩがいるなんて少しも思ってないんだ。それに自分を自らΩだという奴も皆無なわけだし。それだけ希少で、α同様人生で出会うことも稀なんだと思う。みんな自分の知らねえ奴は奇妙で怖いって思っちまうんだよな、きっと」  少し寂しげに見える伊吹を見てハッとした。もしかしたらこの人も俺と同じΩなのかも知れない…… 「あ、あの……店長のバース性、聞いても……?」 「ん? 俺か? 俺は何だろうな。まあ「その他大勢」ってことだ」  伊吹は俺の期待に反し、はぐらかすようにそう言って笑った。その他大勢ってことはバース性を持たないかβなのか……どうやらこの店にはΩはいないらしい。伊吹含めノーマルとβだけ……勿論、性に関しての偏見がある人間はここにはいない。常連の客の中にはαも数人いるらしいが、この店に来る客は皆優良客だから心配いらないと言われ安心した。

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