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13 きっかけ
セックスは好きでも嫌いでもない──
肌を重ねれば心地良いとは思う。気持ちがいいところを責められれば、その快感に自然に声も出てしまう。
でもそれだけだった。
行為をすればする程、冷めていく自分がわかる。何かが違う、と違和感に虚しくなる。沢山の人と体を重ねたら何かわかるだろうか……俺と番になりそうな男はどんな男だろうか? 毎度毎度、そんな期待をしながら男と会っていた。けれど何時だってこれといって何かを感じる事もなく、ただただ寂しい気持ちを埋めるだけで終わっていた。
「待って、先にシャワー浴びさせてよ」
このまま挿入されそうで嫌だった。身体を捩りながら行為を止めると男は途端に不機嫌そうな顔を見せた。
「いいんだよそのままで。イヤらしい匂い、これがいいんだ……ほらもっと足開け」
ああ……駄目だ。
俺の股間に顔を埋める男の頭頂部を撫でながら「早く終われ」と、ため息を吐いた。
一方的な行為の後、俺は一人シャワーを浴びる。満足そうに一服している男は、俺との体の相性がいいと言ってまた会おうと提案してきた。何も感じず、ひたすら虚無感に襲われている俺とは真逆に嬉しそうにしている男に怒りさえ湧いてくる。時間の無駄だとしか思えない奴と何故また会って体を交わさなきゃいけないんだと内心思いながら、俺は笑顔を作り「また機会があれば是非」と、やんわりとあしらい男と別れた。結局俺は心も体も満足することができずに、そのままその足ですぐにもう一人、別の男と会った。
そしてこの時の「翔」との出会いを最後に俺は見知らぬ男との出会いを求めるのをやめることになった──
俺があの時、翔と一晩共にした日の次の日のこと。
開店準備を始めてすぐに気分が悪いことに気がつき、それでも「風邪かな……」と、あまり気にせず仕事を続けていた。この日は開店時に入っていたのは俺一人で、後からバイトが二人来る予定だった。額に手をやり空を見る。目の奥が熱くなり頭がぼんやりしてくるのを感じ、ちょっとまずいかな……と思った俺は、客の混み具合を見て早退させてもらおうと店長の伊吹を待った。
「あ……店長、俺……」
「理玖! ここはもういいから、早く事務所で休んでろ」
伊吹は店に来て俺の顔を見るなり、慌てた様子でそう言った。少し熱っぽいかな? という程度なのに顔を見ただけであんな対応をされて少し戸惑った。
「歩けるか?」
伊吹は俺の肩を抱くようにして一緒に歩く。歩けないほど具合が悪いわけじゃない。自覚はないけどそんなに具合が悪そうに見えるのか? 俺は戸惑いながら伊吹の言う通りに事務所まで歩いた。
「今日はいいから……とりあえず俺が来るまでここで休んでろ」
応接セットのソファに無理やり座らされ、俺は伊吹の慌てように訳がわからず茫然と見ていることしかできない。とりあえずまだ一時間くらいは働けると言ってみるも「駄目だ!」と一喝され、大人しくするしかなかった。
「鍵! 鍵かけておけ。どこにも行くなよ? 俺が戻るまでここにいろよ」
少し怖い顔で伊吹はそう言うと、俺を置いてバタバタと店に戻って行った。
「鍵……?」
言われた通りに鍵を掛けながら、嫌な予感に背筋に汗がジワリと流れる。顔の火照りから息苦しさ、目の奥が熱くなってきて俺は力が入らなくなりソファに横になった。
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