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14 理性
間違いない……この感覚は信じたくないけど発情期 だった。初めこそ体の火照りと怠さだけだったのが、一時間もしないうちに我慢ができなくなってしまい、ソファに突っ伏し息を整える。
このままここにいるわけにもいかない。かといって抜け出したところでどうやって自分の家まで帰ったらいいのか、今の俺には頭も回らずどうしていいのかわからなかった。
「薬……早く、薬……」
常に持ち歩いている抑制剤をポケットから取り出し、震える手で口に持っていく。異常な体の疼きに息も荒く声が漏れる。手元が覚束ずに薬も上手く口に放れない。半ばパニックになりながら、俺は床に這いつくばり落とした薬を探した。
「なんで? なんで……嫌だ、嫌だ……」
涙が出てくる。こんな姿、誰にも見せられない。なんで今、発情期が来たんだ? もう長いこと発情期を実感することなんてなかったのに……薬で押さえつけていた筈なのに。見つけた錠剤を拾い、口に入れようとしたところで事務所のドアが開いた。
「理玖!」
真っ青な顔をした伊吹がドアを閉め俺の元へ駆けつける。
ああ……もう終わった。このまま俺は罵られ、伊吹に犯され解雇される。そう思った瞬間、力が抜けてまた薬を落としてしまった。
「やっぱり……お前、Ωだったのか? 理玖! 理玖?」
「あ……あっ…… 」
俺を抱える伊吹の体温に欲情する。背中に回った手に少し力が加わっただけで淫らな声が漏れてしまう。もうどうだっていい。このまま熱を発散させたい。
「早く……抱いて、もういい……お願い」
伊吹に縋りヤケになった。というより他にどうする術もなく、力の入らない手で伊吹を捕らえその下半身に顔を埋めた。普段何とも思わない伊吹の雄の香りに一気に全身が熱くなる。あの忘れもしない初めての発情期の時とは比べものにならない程の情欲に、どんどん思考が鈍っていくのがわかった。
通常濡れて潤うことのない俺の奥から、目の前の伊吹を受け入れようと愛液が溢れ出てくるのがわかる。みっともない……情けない、こんな姿なんて誰にも見せたくない。そんな風に思うのに、その思いとは裏腹に体は淫欲に濡れていく。俺は泣きながら伊吹を求めることしかできないでいた。
「理玖、理玖? 聞こえるか? お前恋人は?」
「……そんなのいない、いいから……早く、頂戴……店長……」
「………… 」
伊吹は俺のフェロモンをまともに受けてなお、何もせずにひたすら俺を抱きしめ体を優しく摩ってくれる。頭では情けない自分を否定しているのに、こんなに辛く強烈なフェロモンを放出しているにもかかわらず手を出してこない伊吹に対して、どうしようもないもどかしさと惨めさがが募っていった。
「ごめんな……少し堪えろよ……」
伊吹は小さな声でそう言うと、俺の頬をぐっと掴み噛みつくようにキスをする。その瞬間、頭の中の何かが弾けたように僅かな理性が消失した。
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