伊吹にキスをされ、俺はそれだけで果てそうになった。 「んっ……んん……」 　熱い舌先が俺の口内を弄るように蠢く。首の後ろをグッと掴まれ、何かが俺の舌に触れたのがわかった。伊吹の舌が強引にその何かを押し込んでくる。小さくて硬い何か……考える間もなく俺はそれをコクリと飲み込んだ。 「とりあえず、効いてくれればいいが……」 　そう言った伊吹が俺から離れる。それが堪らなく切なくて「嫌だ」とまた俺はその腕を掴んだ。 「理玖……ごめんな、しばらく我慢しろ。すぐ楽になるから……あっ、煽るな……待てって」 「やだ、触って……もっと、もっと俺に触れて……」 　どうしようもなく目の前の雄に縋ってしまう。半端にキスなんかされてしまったらそれだけでおさまるわけがない。俺は強引に伊吹の服を脱がし馬乗りになった。 「お願い、キス……して。我慢できない……抱いてよ」 　肌けた胸元に顔を埋める。直接触れる伊吹の肌に心が躍る。堪らなくなった俺はそのまま伊吹の頬に手を添え唇を奪った。熱い舌に自身の奥がキュッと疼くのがわかる。夢中でキスをしながら服を脱ぎ捨て、勃起した伊吹のそれを受け入れようと足を開いた。 「待て！……わかったから、おい！　やめろ！　理玖」 　突然伊吹は起き上がり、力の抜けた俺はそのまま伊吹に押し倒されてしまった。それでもやっと滾ったそれで貫いてくれるのかと期待が膨らみ、早くと言わんばかりに腰を揺らした。 「あ……ああ、やっ……あんっ……それ、やだ……ああダメ……あ……ん、もっと……もっとそれ……あっ」 「ほら……理玖、出せよ……いいぞ、ほら……どうだ？」 　伊吹は結局俺を抱いてはくれなかった。 　俺の熱がおさまるまでひたすら手淫で俺の欲を満たしてくれた。熱のこもったキスをし、まるで恋人に触れるかのように優しく、そしてイヤらしく俺を弄り「いい子だ、大丈夫だ……」と悲しげに何度も声をかける。何度イったかわからなかった。そして伊吹が強引に飲ませてくれた薬が効いてきたのか、いつのまにか俺は眠ってしまっていた。 　目が覚めると伊吹が俺を見下ろしていて、事の重大さに絶句する。俺は慌てて起き上がり土下座をし愚行を詫びた。先ほどまでの自分の痴態は嫌ってほど覚えていた。泥酔した時のように記憶が吹っ飛んでくれていたら、まだ気分的にマシだったかもしれない。せっかく長い間俺のことを認めて雇ってくれた伊吹に対して俺は何ということをしてしまったのだろう。βだと嘘までついて、挙げ句の果てには発情を理由に迫ってしまった。こんなの酷い裏切り以外ない。罪悪感ととてつもない恥ずかしさに本気で「死にたい」と思ってしまった。 「ごめんなさい……ごめんなさい、俺……俺……」 　頭を上げられなかった。怖くて伊吹の顔を見ることができず、俺は床に額を擦り付け謝ることしかできなかった。