25 / 55

25 心落ち着く場所/理玖の思い

 発情(ヒート)を助けてくれた伊吹に俺は全てを打ち明けた──  話の途中、突然伊吹に抱きしめられた。びっくりしたけどそれと同時に体全体が包み込まれるような優しさに、俺は堪らなくなりしがみついた。離したくない、縋りたい……と心底思った。  伊吹は俺がΩだと知っても蔑むどころか「家族」のように頼ってくれて構わないとまで言ってくれた。俺の話を聞いたうえで「理玖がΩだろうと何も変わらない」と言ってくれた。伊吹がαだったことにも驚きだけど、あんな失態を犯した俺を許してくれることに戸惑いを感じてしまう。それでも全てを曝け出してしまった今、俺には伊吹を信じる事しかできなかった。  「俺はΩだけど、別にセックスが好きなわけじゃない」 「うん。わかってるよ。さっきのは発情が原因なんだ。薬も飲んでなかったら皆ああなる。しょうがないよ」  店での痴態が今頃になって思い出され、恥ずかしくてしょうがなかった。薬で押さえ込んでいたせいで自身の発情なんてまともに経験したこともなかったから、どうしても言い訳をしたかった。本当の自分とは違うのだということを伊吹にわかってもらいたかったんだ。 「淫乱……なわけじゃない」 「はは、勿論俺は理玖のことをそんな風に見てないよ? 何? 心配?」 「……うん。俺、Ωだし。店長のこと襲った……」 「あれは凄かったな。正直可愛くて堪らなかった」 「は? 可愛いとか言うな。てか店長、本当にαなの? αって近付けばすぐわかると思ってた」  Ωにとってαは特別なのだと思っていた。出会えば絶対わかると思っていたから、こんな身近にいても今の今までノーマルかβだと思っていた伊吹がαだったなんて、やっぱり信じられないところがあった。 「うーん。αの中でもきっと俺は出来損ないのαなんだよ。αの血が薄いんだろうな。恵まれてるのは人を見る目、くらいかな。こうやって理玖とも出会えてたわけだしね。Ωだって見抜けなかったけどさ……」  そう言って笑う伊吹を見て、俺はやっぱりこの人はαなんだと気付かされる。だいぶαのイメージとは違うけど…… 今まで見て感じてきた伊吹の人柄、人を惹きつける魅力や包容力を見れば、普通の人間とは違うとわかる。そして信用に値する人物なのだと実感した。  それからというもの、伊吹はほぼ毎日やってきては俺の世話をやいてくれた──  あまりにも頻繁に訪れるから、俺は伊吹のために合鍵を用意したくらいだ。  伊吹は特に俺の体の心配をし食事を作ってくれた。Ωは体もデリケートな部分が多いと言い、ちゃんとした体調管理や体づくりは重要なのだと教えてくれた。わざわざ俺に合わせて休みを取り一緒に病院にも行ってくれた。バース専門の医者に診てもらい、自分の体に合った抑制剤を処方してもらう。こういったΩとして当たり前のことを俺は何一つしてこなかったのを伊吹は咎めることもなく、保護者のように教え見守ってくれていた。  あんなに味もしなかったつまらない食事が、伊吹と二人で食卓を囲んでいるうちに不思議と美味しいと感じるようになれた。伊吹はそんな俺を見て「体だけじゃなく、ちゃんと心にも栄養を行き渡らせないとな」と言って笑った。

ともだちにシェアしよう!