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27 将来への期待と運命

 伊吹は優しいから……  きっとΩである俺のことを思って「番にならないか」と言っているのだと思った。  優しいから、きっと裏切ることなく生涯を共にしてくれるのだろう。「子が欲しい」と俺が言えば躊躇なく抱いてもくれるのだろう。 「本気で言ってるの?」  俺と出会ってしまったばっかりに──  きっと同情だけでこんな事を言い出したのだと申し訳なく思った。 「勿論本気だよ。でも理玖の自由でいい。理玖が番が欲しくなったら俺がいるから安心しろってことが言いたかったんだ」  今まで俺に向けられていた優しい眼差しとは少し違って見えた。自惚れでなく、伊吹の俺に対する愛情がひしひしと伝わってくる。意識した途端に肌で感じるその大きすぎる愛情に俺は訳もなく怯んでしまい、どうしていいのかわからなかった。 「……考えさせて」  そう言ったものの、伊吹の申し出に揺らいでいる自分がいた。伊吹に対して恋愛感情というより、家族愛や兄弟愛のような気持ちでしか接してこなかったのが事実。伊吹だってそうだ。俺に対して親や兄のような愛情で接してくれていた。何度も一緒にベッドで朝を迎えても、どんなに密着し伊吹が俺を抱きしめてくれても、俺は全くいやらしい気持ちにはならずに伊吹の深い愛情に心地良さしか感じてこなかった。 「考えさせて」というのは伊吹と番の誓約を交わす、交わさない、ということではない。そもそも俺は「運命」としか番うつもりはなかったのだから……  伊吹が俺の「運命」ではないことは明白だった。それでも番になると言ってくれた。伊吹とならきっと……と、今まで描いたこともなかった自分の将来への期待が胸の奥に小さな蕾となって膨らんでくるのがわかる。それでも、嬉しさよりもやはり戸惑いの方が大きかった。 「今日は泊まっても?」  伊吹は俺の顔色を伺うようにして聞いた。いつもならそんな事も聞かずに、俺が一人になりたくない時はそれを察して泊まってくれていた。何も言わずとも、優しく抱きしめ「大丈夫」と安心させてくれていた。 「なんでそんな事、聞くの?」 「……理玖、俺のこと警戒してるから」  寂しそうに笑う伊吹を見て罪悪感が湧いてくる。そんな顔をさせたくなくて、思わず俺は伊吹の手を取り「ごめん」と謝った。  伊吹のことを警戒しているわけじゃない。「ちょっと戸惑ってるだけだから」と素直に伝え、泊まってもらうことにした。 「俺さ……運命の番、信じてるんだよね」  今日の伊吹は俺のことを背後から抱きしめるようにしてベッドに入る。きっとお互い顔が見えない方が話しやすいと思ってのことなのだろう。そんな気遣いにいつも俺は甘えている。俺ばっかり伊吹に与えてもらっている。俺からは何も与えてやることもできないのに……だからちゃんと言わなきゃいけない。俺は断らないといけない。 「笑っちゃうよね……」  言っていて恥ずかしくなる。「運命の番」なんてきっとΩの間にだけに知れ渡っているような都市伝説だ。それでも俺はずっと自分の運命と出会えたら……と思って生きてきたんだ。番の申し出をしてくれた伊吹にはきちんと話しておかなくてはと、思いきって打ち明けた。

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