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32 名前を呼んで……

 翔が勝手に注文した食べ物を、俺は義務感のように口に運ぶ。俺が食べている姿を満足そうに翔は見つめ酒を煽った。 「食べないのかよ……」 「ん? そんな腹減ってないし」 「は? 俺こんな食えないからな。勝手に頼んだお前が食べろよ」 「ふふ……はいはいわかりましたよ」  どんなに冷たくあしらっても嬉しそうに俺を見る翔に調子が狂うし、揶揄われているようで気分が悪かった。それにそんなにじっと見つめられたら余計に食べ辛かった。食べながら翔は俺のことを根掘り葉掘り聞いてくる。どこの生まれだの何歳だの、今まで恋人はいたのかだの、全くもって余計なお世話だ。話を聞いててわかったことは、翔は俺よりひとつ歳下。住んでいるところも意外に近いということ。勿論俺の住んでいるところは教えていないし、今後教えてやるつもりもない。 「質問しつこい。お前には関係ないだろ」 「いやあるよ……それに「お前」じゃない。俺は翔だ」 「………… 」  過去に同じようなことを翔に言った気がする。ふと見せた寂しげな表情に胸がキュッとなった。 「ごめん……翔」 「顔が赤いよ? 飲み過ぎた? 可愛いね……てか、そうだ……名前くらいちゃんと呼んでほしい、って俺もあの時言われたな」  クスッと笑い、翔はそっと俺の手に自分の手を重ねてきた。突然のことで驚いて体が固まる。振り解こうにも体が動かなかった。 「好きな奴から名前を呼ばれないのは凄い寂しいよな。なあ? 理玖……」  握られた手から翔の熱が伝わってくる。まるで全神経がそこに集まっているかのように敏感に感じた。俺が何も言えないでいると翔は徐に俺の手をとりそっと持ち上げ、あっと思う間もなく俺の手の甲にキスをした。  それから俺はどうやって家に帰ったのかよく覚えていない。脳天から一気に全身をかけ巡るような衝撃が走り、俺は夢中で翔の手を振り切り逃げるように店を出た。  咄嗟の行動──  自分でもよくわからなかった。ただ部屋に帰ってきて、この行動が正しかったのがわかった。伊吹が店で心配していた通り、俺はそのまま時期外れの発情期に襲われた。 「んっ……はあ……っくそ……んん……」  抑制剤を飲んだものの、数時間前にも服用していたせいか効き目が悪かった。そもそも本来の時期じゃない突発的な発情。熱を逃すすべが無く、俺はシャワーを浴び一人ベッドの上で悶えるしかなかった。自身の手で、指で快感を求め身を捩り慰めるしかない。久しぶりの感覚に苛つきながらも頭を過っていたのは不思議と翔の顔だった。  チュクッと卑猥な音が響く。自身で気持ちの良いところを探りながら、体勢を変え何度も何度も擦りそして抉った。ここに誰かがいたら迷わず俺はそこに跨り腰を振り、熱り勃つ滾った己に触れて欲しくて淫らに強請ってしまうのだろう。そんな自分を想像し、浅ましさとどうしようもないもどかしさに苛立ちが増した──

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