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37 翔と実治
側から見たら俺は相手を取っ替え引っ替えしている軽い人間に見えるらしい。概ねそれは間違ってもいないと思う。
「勝手に女の方から寄ってくるんだからしょうがないだろ? それに俺からは誰も好きになったこともないんだし……」
「……嘘だろ? 真面目な顔してとんでもないこと言うね。それ女の子の前で絶対言っちゃダメなやつね」
大学で知り合った実治はいつも俺の側にいた。実治の人間性なのか、初めて会った時から俺に対して裏表なく接し付き合ってくれる。常に本音でものを言う実治の前では、本来の自分でいられるような気がして居心地が良かった。
俺の周りには男女問わず常に人が溢れていた。自分が望んでこうなっている訳じゃない。勝手に寄ってきては友達のふりをしてチヤホヤし、そして勝手に幻滅し離れていく……それの繰り返し。皆、上辺だけの浅い付き合い。その中心部にいる俺は一体何なのだろうと常に思っていた。
「やっぱりさ、そこはかとなくわかるんじゃね? 翔がαだってこと」
俺が第二の性に対して過敏になっていることを知ってかしらずか、実治は流行だというタピオカドリンクをわざと音をたてながらストローで啜る。
「こうやってさ野郎二人でカフェにいたって、見てみ? あちこちから視線感じるよね。αだってわからなかったとしてもさ、他の奴とはやっぱり違うんだよ。オーラみたいな? 翔君、普通にカッコいいしさ……なんか勿体ねえって思うよ、俺は」
実治は知り合ってすぐ「君αでしょ?」と嬉々として俺に聞いた。「αらしくないのに面白いね」とまで言われ、意味がわからず聞いてみれば理由は簡単、自身がαであることを少しも誇りに思っていないと指摘された。
「俺は寧ろこの性はマイナスだと思ってる」
「ほら、もうわけわかんないし……何それ、嫌味ですか? 変わってんね。勉強もできてスポーツ万能、おまけに容姿端麗、文句のつけようがないじゃん。さすがαって思うでしょ」
「勉強も運動も俺が努力した結果だ。αだから何でもできるわけじゃない」
「はいはい、そうでした、失礼しました。全く……まあ俺は翔のそういうところが好きなんだけどさ」
実治は聞いてはいないが恐らくβかノーマルだ。わざわざ聞くこともないし、バース性を知ったところで友人関係が変わるわけじゃない。俺のことを「モテるけど性格に難有り」なんて笑いながら言うこいつは、俺がαだから一緒にいるのではないのだとわかる。
「……ありがとな。実治と友達になれて良かったわ」
本音を漏らしても幻滅されることもない。逆にそういうところが好きだと言ってくれる。他人に対して疑心暗鬼になっていた俺にとって、実治との出会いはありがたかった。
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