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40 お姫様探し
「今日もお姫様探しすんの?」
実治に声をかけられ俺は頷く。知らない奴から見たら「ナンパ好きの軽い男」だと思われてもおかしくないし、現に合コンにも頻繁に誘われるようになっていた。あまり気が乗らなくてもそういった出会いの場には極力参加するようにしていたし、予定がなければ一人外に出て人間観察紛いなこともしていた。いつしかそんな俺の姿を見て実治は「お姫様探し」なんて言い揶揄うようになった。それでも顔を見ればなんだか嬉しそうにも見えるから、俺はこの行動をずっと続けていた。実治からあんな話を聞かされてからは、ただ受け身で相手を待っているだけじゃ駄目だと感じ動かずにはいられなかったんだ。
街に出て、道行く人々をぼんやりと眺める。どんなに綺麗な女でも、どんなに目を引く男でも、やっぱり俺が心動かされるような人物には出会えないまま、また今日も時間だけが虚しく過ぎ賑やかな夜が更けていった。
「そういえば……」
俺はここ最近よく利用していたカフェのテラス席に座り、道の向こうに見える路地を見つめる。数日前に実治と一緒にここに来た時、新しく始めたバイト先があの路地を入った先にある店なんだと言っていたのを思い出した。確かボーイズバー。実治が言うには仕事終わりのキャバ嬢やホスト、ゲイや普通のOLなど客層はバラバラで、一人で来ても気兼ねなく居心地が良い店らしい。指名をもらえれば給料も上がるから「一度は俺のために呑みに来い」なんて言われていた。思い出してしまった手前、このまま帰るのもなんだしな……と、実治が店にいるかの確認もしないまま、俺はふらっとその店に向かった。
「世界中のどこにいるかなんてわからないけど、運命の番って奴は自然に引き寄せ合うものなんだろ? 翔がここにいるってことはさ、その相手だってきっと近くにいるはずなんだよ」
実治は俺に向かってそう言っていた。運命というものが本当にあるのなら、自分から探しに行かなくても自ずとそれは近付いてくるものなのでは、と。きっと夜な夜な一人で街を彷徨く俺を見兼ねて言ってくれたのかもしれない。俺は店に向かって歩きながら「それもそうだよな」と一人笑った。心ときめく相手になかなか出会えず必死に探している自分が滑稽に見える。自分の意に反してつまらない女ばかり寄ってきて辟易していたのもあり、もういいかな……と諦めながら目的の店に足を進めた。
他の客に紛れて店内に入った。
開店直後だったらしく、まだ静かな店内に「いらっしゃいませ」と澄んだ声が小さく響く。自分一人に向けられた言葉ではないのはわかっているのに……それは特別意味のある言葉でもないだろうに、何故だか俺はその声に嬉しく思いドキッとした。
カウンターの中からこちらに顔を向けるその声の主。自分と近い年頃の一人の男と目が合った。
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