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41 見つけた
やっと見つけた──
出会うことができたなら、それは互いに明確となる……筈だった。
どういう訳かそれは俺にしかわからなかったらしく、最愛の「運命」の態度は俺に対して恐ろしいほどに素っ気なかった。
「翔……」
名前を呼ばれた。初めて会ったはずなのに、この愛しい人は驚いた顔をしながら俺の名前を呼んでくれた。高揚感が溢れて舞い上がってしまった俺は何故この男が俺の名前を知っていたのかなんてこれっぽっちも考えなかった。只々嬉しくて今までに体感したことのなかった感情に、これが運命、奇跡なのだと一人喜びを噛みしめていた。
まるでお伽話のような「運命の番」の存在。それを知った時から俺は自分の相手を探していた。最初は軽い気持ちだったはず。それがいつのまにか成し遂げないといけない大事な義務のようになっていた。ある意味意地のようなもの。
俺がここにいるのなら、運命の相手もきっと近くにいるはずだ。
そう、その言葉は真実だった──
見た瞬間、俺は駆け寄らずにはいられなかった。驚いた顔をした男は俺をジッと見つめる。ただそれだけなのに、嬉しくてしょうがない。興奮を隠せずに「こんなところにいたのか!」と大きな声を出してしまった。
こんな感情、生まれてから一度も体験したことがない。これは絶対に運命の番なのだと俺はわかっているのに、何故かこの男は訝しげな顔をして、なんなら俺に対して嫌悪の表情まで浮かべていた。
混乱の極み……
俺の番ではないのか? いや、そんなはずはない。目の前のこの男こそ、出会うべくして出会った俺の大切な人なんだ。でも単なる一目惚れで俺はこんなに舞い上がり興奮しているのか? それならどんだけ恥ずかしいんだ。今まで碌に恋愛などしたことがなかったから、もしかしたら本当にただの一目惚れなのかもしれない……
頭の中でぐるぐると様々な感情が交差する。何が正しいのか分からなくなってしまった。自分の気持ちさえ疑わしくなる。俺を見つめて何とも言えない表情の男にそれ以上何も言えなくなってしまった。頬を染め俺を見つめるその顔は、少なくとも好意を含んだ表情ではなかった。
「お客様? 飲み物はどうされます?」
不意に声をかけられハッとする。気がつけば俺の目の前には違う男が立っていて、柔らかい笑みを浮かべていた。
「あ……ああ、なんでもいい……や」
心臓がうるさかった──
店員は少し困ったような顔をしながら「それなら……」と俺の好みを聞いてくれ、ちょっと小洒落たカクテルを作ってくれた。
「この店は初めてですよね? 私は店長の伊吹です。お客様、お名前は聞いても?」
「あ……翔、です」
出されたカクテルに口をつける。動揺し過ぎて味なんてわからなかった。店を見渡しても先ほどの男はいなくなっていて、キョロキョロしている俺に気がついた伊吹は俺に話しかけてきた。
「翔君はうちの店員の知り合いだったのかな? 向こうは知らなさそうだったけど……」
「あ、いや……はい。人違いだったみたい。なんだか驚かせてしまったみたいで、すみませんでした」
俺のことを牽制しているような伊吹の視線に気持ちが怯む。確かに俺が掴みかかる勢いで声をかけてしまったのだから不審に思われても仕方がなかった。
「えっと、彼はどこに?」
「休憩ですよ。しばらくは戻りません」
真顔の伊吹の口調から、彼は俺がここにいる間は戻っては来ないのだろうと察し、出されたカクテルを飲み干した。実治も見あたらなかったのもあり、いたたまれなくなった俺は会計を済ませてすぐに店をあとにした。
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