後悔しないか？── 　俺は伊吹の言ったことの意味がわからなかった。 　体を綺麗にし、ベッドに戻ると複雑な表情の伊吹が両手を広げて「おいで」と俺を呼ぶ。吸い込まれるように俺はその優しい腕に体を滑り込ませ頬を寄せた。愛おしそうに伊吹の手が俺の体を優しく弄る。熱い吐息がそこかしこに触れ、それだけで俺は幸せな気持ちになった。 　 　伊吹の指先が秘部に触れる。クチュっと卑猥な水音が漏れ聞こえ、伊吹は首を傾げた。 「今は発情期じゃないよな？　もしかして準備してきたのか？」 　改めて聞かれると恥ずかしかった。自ら誘ったのだからローションを仕込み伊吹を受け入れる準備をするのは普通のことだと思い、俺は小さく「うん」と頷いた。 「可愛いことをしてくれる……」 　そう言った伊吹は遠慮無く俺の中に指を沈めた。久しぶりの感覚に体が強張る。押し広げられる感覚と、探るような伊吹の指先の蠢きが容赦なく俺を襲った。 「待って……ちょっと怖い……」 　思わずそう漏らした俺に、伊吹は「大丈夫」と囁き唇に触れる。アッと思った瞬間、キスで口を塞がれてしまった。伊吹からこんなキスをされるなんて思っておらず驚きで思考が鈍る。 　口内を弄る伊吹の舌と、俺の中で良いところを探るように動く指。伊吹の力強い片腕にきつく抱かれた俺は身動きもままならず、されるがままじわじわと襲ってくる快感に耐えるしかなかった。 「んっ……ああ……それ、嫌だ……あっ」 「嫌？……気持ちいいんだろ？　大丈夫だよ……もっとよくなる……」 　体に力が入らない。今まで色んな奴に体を弄られたけど、こんな快感に襲われる事など一度たりともなかった。激しく襲ってくる思いがけない快感に、小さな恐怖のようなものを感じてしまう。いつもの優しい顔とは違った表情を見せる伊吹に、俺は「嫌だ」とか「ダメ」とか否定の言葉ばかり発してしまった。 「どう？　ここ……いいだろ？　ほら、こんなになってる……いい子だ、リラックスして……」 　伊吹の執拗な愛撫に自然と体が緩んでくる。開いた体に伊吹が割って入ってくるのを俺は受け入れ、期待に腰を少し浮かせた。 「んっ……」 　伊吹の熱く滾ったそれが俺の潤んだ奥へと押し入られ、圧迫感に息が詰まった。「リラックスして……」と囁く伊吹の吐息が耳元に触れる。敏感になっている体は一々その刺激に反応し、情けなく小さく震えた。 　緩々と伊吹の腰が律動を始める。俺は只々その動きに合わせるように声を漏らすことしかできなかった。時折優しく口づけをされ、伊吹の手が頬を撫でる。俺を見つめる優しい瞳に、どうしても切なさが込み上げてきて泣きたくなった。 「理玖……理玖……」 　そう俺を呼ぶ伊吹の声は、いつものそれとはまるで違って熱を帯び、猛烈に求められているのがわかる。 　それでも体は伊吹に支配され喜びを感じているはずなのに、何故だか頭に浮かんでくるのは初めて会った日の翔の姿だった。