激情に駆られるような恋や愛に身を滅ぼされてしまうこともある。 　俺も大切な人を失いそうになって辛い思いもしたけど、それでもやっぱりバース性のある人間、αとΩの関係性は羨ましいと思ってしまう── 「俺にはそういうのないから正直羨ましいって思うよ」 　翔に以前話したことがある。バース性なんてこの世からなくなればいいのに……と言いながら、それでもバース性によって強く結ばれていく絆のようなものを見ると羨ましく思ってしまう。そういった特別な感情は、なんの性も持たない俺には一生経験することはできないのだから…… 　愛しい人に猛烈に愛されてみたい── 　溢れる愛情を惜しみなく誰かに注ぎ、幸せになりたい。そう羨ましく思うのはしょうがないよね？ 　誰にも心奪われなかった翔が、理玖と出会って激変した。翔がαで、恐らく理玖はΩ……でも翔がいくら近付いても理玖の態度は酷く素っ気ないものだった。側から見たらそれは翔に対してだけ。普段の理玖は誰にでも分け隔てなく優しい人間のはずなのに、翔に対してだけ辛辣で横暴な態度に俺は苛々が募っていった。 　きっと翔にとっての「運命」は理玖なのだろう。あんなに誰に対しても執着なんかしてこなかった翔が、理玖を一目見ただけで恋に落ち、見たことのないような表情を見せはじめた。恥じらいながら「このままアプローチしてもう少し親しくなりたい」なんて控えめなことを言う翔を見て、その視線の先はあいつじゃなくて俺だったなら……なんて思ってしまった。 　翔が他にないくらい、いい奴なのは俺がずっとそばにいたからわかっている。俺だってΩなら……せめて第二の性を持っていたなら、少しは違っていたのかもしれない。番うことはできなくても、愛し愛されることがあったかもしれない。 　Ωだからって皆から愛されるのが当たり前なんて思っちゃいない。それにΩが、特に男のΩがどんなに酷く蔑まされてきたかもわかっている。だけど翔に対してあんな態度をとる理玖が俺は許せなかった。 　だからちょっとだけ、意地悪をしたくなってしまったんだ。 　 　 　揶揄い半分、そして本気が半分。 　こんなのただのやっかみだってわかってる。 　 　それでも言わずにはいられなかった──