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51 同じα/翔と伊吹

 実治に「理玖と伊吹の噂は本当だったかも」なんて言われ、俺はいてもたってもいられず理玖がシフトに入っていない日を見計らい店に向かった。  初めこそ俺は理玖から好かれようと必死に行動をしていた。いくらアプローチをしても全然つれない理玖の態度に、実治も「諦めたら?」なんて言う始末……それでも時間がかかってもいい、俺と理玖は運命で繋がっているのだからそのうちわかってくれるだろう、と最近ではあまりしつこく誘うこともせずのんびりと会話を楽しめるようになっていたのに……  他の客が疎らな時間を見計らい、早めに店に入った。俺以外の客はまだ誰もおらず、店長の伊吹一人がカウンターの中で暇そうにグラスを磨いていた。 「いらっしゃい。あれ? 今日は理玖は休みだし実治もまだしばらくは来ないけど、一人? 珍しいね」 「……たまには伊吹さんとも話がしたくて」  急に変に思われるだろうか。いつも店にきても俺は理玖や実治にしか話しかけなかったし、店長の伊吹とは殆ど会話をしたことがない。でも話したいのは事実だし、こう言うしかなかった。  手にしたグラスから顔を上げた伊吹と目が合った瞬間、威圧感のようなものを感じてしまい尻込みする。なんでこんなに緊張してしまうのかわからなかった。別に睨まれたわけじゃない。伊吹は普通に顔を上げ、俺を見つめただけ。寧ろ笑いかけてくれたのに、この僅かに感じる嫌悪のような感情は何なのだろう…… 「そう? 嬉しいな。俺も翔君とはちゃんと話がしたいと思ってたんだよ」 「いつものでいいね」と言いながら、俺にオーダーを聞くこともなく手際よく酒を作って出してくれる。俺は黙ってそれを受け取りひと口だけ啜った。 「理玖のことでしょ? 悪いね……大体言いたいことはわかってるよ。君、αだよね? 理玖に随分執着してるように見えるけど」    ああ……そうだ。この人も俺と同じαなんだと今更ながら気がついた。  αもΩも、接していればなんとなくわかってしまう。それぞれが纏う独特な雰囲気、フェロモンのようなものを肌で感じ取ることができるからなのだと思う。ただこの目の前にいる伊吹にいたっては初対面の時から俺は何も感じることはできなかった。恐らく自身の性を意図的に隠していたのだろう。だから今、この一瞬で伊吹は俺に対して同じ「α」なのだとあえて主張してきたように思え緊張したのだ。 「執着って……言い方」 「違う?」 「……違わないです。すみません。あの、伊吹さんももしかして……」 「そう。俺も翔君と同じαだよ。でも出来損ないのαだからね、君と違って特別優秀ってわけじゃないらしい」  楽しそうに笑ってそう言う伊吹だけど、俺から見たら格上なのだと感じるほどの威圧感だった。謙遜しているのが白々しくて馬鹿らしく思えた。

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