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「あの、毎っ回思うんですが、なんでオレなんですかね……?」
パスタは昨夜食べたばかりだからそれ以外で、と雑なリクエストを一言ぽいと放り投げ、さっさと自身の楽屋に引き上げて行ったイケメン俳優様は、章太がその楽屋を訪ねた時、すでにコックコートを脱ぎ捨てた私服姿だった。
かっちりした制服姿ではずっと歳上に見えた面立ちも、ゆるっとしたラインのラフな服装に変わると、たった一つ歳上なだけの二十七歳なのだということが強く意識される。
(というか、存在感がすごい)
簡素な楽屋の中、パイプ椅子に座っているだけ。にも関わらず、強い磁力でも働いているかのようにそちらへ目線が吸い寄せられてしまう。そして、その姿から目を離せなくなる。特に興味もなさそうに雑誌を捲っている、それだけなのに──伏せた面差しの端正さも、天井の照明にきらきらときらめく艶やかな髪も、袖をまくった腕の健やかな長さも。
なにもかもが特別製だ。
続木黒也の周囲だけ、空気が違う。
うっかり見とれてしまったおかげで、章太は彼のマネージャーも同室しているという当たり前の事実に、言葉を発してから気付いた。続木黒也のマネージャーはぴしりとしたスーツ姿の、三十代くらいの男性で、いつ見掛けても忙しそうな人だ。今もスマホを耳に当てながら、分厚い手帳とタブレットを交互に確認している。章太のことを気に掛けたようすはない。
一方、のんびりと顔を上げた続木黒也は、不思議そうに首を傾げるのだ。
「なんの話?」
「え、いや……ええとですね……」
「おっ、めちゃくちゃ旨そう!」
ケータリングの料理をそれらしく盛り付けたワンプレートに目を向け、続木黒也は屈託のない声を上げる。章太がそれをテーブルへ置くと、俳優はまずぱん! と両手を打ち合わせた。
「いただきまっす。はー、すげえ腹減った!」
「どうぞお召し上がりクダサイ……」
オレの作ったもんじゃないけど。
オレは出来上がってるもんをちまちまよそってきただけだけど。
章太の心中を知ってか知らずか、さっそく箸を手に取って豚の角煮を頬張った続木黒也は、「うめえ!」と相好を崩している。五穀ごはんにも、ひじきの煮物にも、味噌汁にも意欲的に箸を伸ばした。それは見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
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