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「高橋さん、すみませんが」
「えっ……あ、はいっ」
ふいに声を掛けられ、慌てて振り向くと、そこには見慣れたスーツ姿の男性が立っている。続木黒也のマネージャーだ。
彼はあくまで冷静な口調を崩さず、淡々と言った。
「本人の楽屋で続木が死んでいるので、なにか適当な食事を持って行って頂けませんか。私はこれから、薬の調達と足の手配をしてきます」
「えっ……? し、しんでるって……」
「まともに動けない状態だ、ということです。息はしています。では、よろしくお願い致します」
「あ、は、はい……」
折り目正しく頭を下げて颯爽と立ち去るマネージャーは、言葉どおり、すぐにスマホを取り出し片耳に当てている。それを呆然と見送ってしまってから、章太は遅れて事態を飲みこんだ。
(え、つまり、熱がそうとう高くて動けない? で、このあと薬を飲むってことは……)
(とにかく、やわらかくて消化の良いものを胃に入れないと)
撮影後のケータリングスペースには、空きっ腹を抱えたたくさんのスタッフたちがわいわいとたむろしている。章太はその人波を縫いながら、足早にメニューを見て回った。……が、当然ながらここに並べられている食事の数々は、とても病人に優しいものとは言えない。
章太は探すのを止め、大きなおひつから白米だけをよそって、すぐにスタジオ内へ取って返す。厨房セットで洗いもの中のスタッフに声を掛け、雪平鍋といくつかの調味料を都合してもらうと、手早くおかゆを煮始めた。
これまで俳優にねだられて運んできた食事の傾向から、意外と和食好きなことはわかっている。ケータリングのポタージュスープで間に合わせるより、こっちの方がきっと舌に馴染むだろう。
味付けは、ほんのりと塩気を感じるくらいの薄さ。塩を振る、梅干しをのせる、といった方法もあるけれど、たぶん味噌をそっと溶かした方が好みには合うんじゃないかという気がした。
出来上がったおかゆを深皿に移し、木さじを添えて、章太は俳優の楽屋へ急ぐ。
「続木さん、……高橋です」
「んー……ハイ」
「あの、お食事をお持ちしました……って、や、オレ両手は塞がってますけど何とかなりますんで、構わず寝てください……っ」
「んーうん……」
出迎えてくれた俳優相手に動揺して言うも、律儀な彼は、章太が楽屋のドアをちゃんとくぐり終えるまで支えて待ってくれている。それも自身が扉に縋っていなければ立ってもいられないような状態で、こちらとしては気が気じゃない。繰り返す生返事はまるで寝言のように不明瞭だし、そもそも呼吸自体がつらそうだ。撮影中とは別人だと言えるほど、具合が悪化している。
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